一人旅

007 スペクターの一人旅のレビュー・感想・評価

007 スペクター(2015年製作の映画)
4.0
サム・メンデス監督作。

世界各国の機密情報の掌握を企む犯罪組織“スペクター”のボス、フランツ・オーベルハウザーとMI6諜報員ジェームズ・ボンドの宿命の対決を描いたスパイアクション。
昔の007と比較すると、ダニエル・クレイグ版007は暗い映像、残酷な描写、複雑な脚本が特徴的。ボンドが宇宙に行くなど荒唐無稽を極めた旧作品群とは完全に作風が一新されていて、重厚で現実的なスパイ映画に見事生まれ変わった。
たとえ作風は変わっても登場人物やキャラ設定はシリーズ初期のものを踏襲させるという長年のファンに対する配慮が、本シリーズを50年以上に渡って継続できた要因になっているのだと思う。演じる役者は交代しても、ボンドの上司M、技術担当Q、秘書マネーペニーといった主要キャラはしっかり登場してくれるし、「ボンド、ジェームズ・ボンド」の名セリフや例のテーマ曲、ボンドの愛車アストンマーティンや、ここぞという時に起死回生の役割を果たす秘密兵器もいまだ現役。
今回はボンドガール役にフランス人女優のレア・セドゥを配し、初老のボンドと健康的でフレッシュなボンドガール、マドレーヌ・スワンの微妙な距離感がいい感じ。いつものように強引な口説き文句であっさりボンドガールをモノにしてしまうのではなく、過去の悲劇から殺しを忌み嫌うマドレーヌの姿を通じて、諜報員≒殺し屋である自己とマドレーヌに対する愛情の狭間で葛藤するボンドの姿が新鮮に映る。
そして、過去作品で死んだはずのスペクターのボス、オーベルハウザー(名前が変わった)が本作で久しぶりに再登場。ボンドとオーベルハウザーの知られざる関係性やスペクターが関与した過去の事件の暴露といった新事実&新展開が見どころだ。また、オーベルハウザーを演じたクリストフ・ヴァルツは静かな狂気に満ち溢れた演技を魅せている。逆光で不気味に浮かび上がる黒いシルエットや、残虐な行為を淡々と実行していく姿は悪役として抜群の存在感。前作の悪役ラウル・シルヴァを演じたハビエル・バルデムとは180度テイストを変えた悪役像を体現している。
そして、肝心のアクションも迫力満点。冒頭のメキシコシティを舞台にした長回しのファーストアクション(これもお決まり)や、火薬量最大の大爆発で迎えるクライマックスは圧巻だ。
スパイ映画の金字塔的存在と言える007シリーズ。踏襲すべき部分は踏襲し続けながら、時代の変化に合わせて作風を変えてきた。このままシリアス路線でいくのか、それとも再度ガラッと中身を変化させていくのか。今後の展開に期待したい。
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