映画漬廃人伊波興一

徳川いれずみ師 責め地獄の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

徳川いれずみ師 責め地獄(1969年製作の映画)
4.2
石井輝男「徳川いれずみ師 責め地獄」は殺気を孕むほどの酩酊と混迷の中で彷徨っていようと、その異臭と死の模様でたちまち身がすくんでしまいそうな映画です。。

誰しもが一度や二度、経験されたに違いない。
不意打ちに視界に飛び込んくる毒々しい蟲の模様や光沢。
例えば青みががった緑色の羽と、邪悪そのものの色をしたぶよぶよの銅を持った大型の蛾が夜の帳の中から突然、頬や手に触れた時。
そんな驚きに似た肝を冷やす映画が石井輝男「徳川いれずみ師・責め地獄」
開幕の鋸引き斬首からラストの股裂きの刑まで、もはや(悪趣味)という言葉自体が怖気づいて逃げ出しそうな毒と臭気が全編に溢れております。

一応は吉田輝雄と小池朝雄演じるふたりの彫り師の対決という軸はございますが、本作の力はあくまで製作者・岡田茂が命名したとされるタイトルそのままの23種に及ぶ女体責めの極到。

東映の名脚本家・掛札昌裕をして猥褻の極致を打ち出そうとする石井輝男の構成・想像力、そして痴態の独創性に舌を巻いたらしいです。

とはいえ、主演女優・由美てる子がその撮影のあまりの苛酷さに行方不明になり、代役・片山由美子でさえ女体逆さ吊りなどの無理強いに涙を飲んだそう。
女優さんは本当に大変です。
そしてこの作品の凄みは映画の内容だけでなく、撮影秘話そのものも遜色ないくらいの歪みよう。
女優だけでなくスタッフにも情容赦なく当たる石井監督のみならず伝説の怪物プロデューサー・岡田茂に不満を抱く助監督一同が本作撮影中の1969年4月14日、京撮の組合掲示板に声明文を貼り出し。石井監督排斥運動まで発展し、朝日新聞のバッシング運動が呼応されたという、文字通りいわくつきの問題作。

パゾリーニの「ソドムの市」やティント・ブラス「カリギュラ」、近年のラース・フォントリアーの「ニンフォ・アニマック」などを引き合いに出すまでもなく、いつの時代にも、どの国にも露悪趣味の映画は存在します。
ですが、私は本作に上記のポルノ作品には一度も脈打たない奇譚特有の背徳カタルシスを感じたのです。

それにしても岡田茂の生涯を、どなかに映画化してもらえないでしょうか?
私に資本があるのなら迷わず投資したいところです。