晴れない空の降らない雨

たまこラブストーリーの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

たまこラブストーリー(2014年製作の映画)
4.6
 この作品(テレビアニメ含む)は何度観ても素晴らしい。すべてが完璧で、どのキャラクターも生き生きと輝いている。
 山田尚子の監督第2作にあたり、他のメインスタッフも『けいおん』シリーズから続投している『たまこまーけっと』は、前作よりも「アニメっぽい」。日常的な世界のなかにデラというファンタジー要素が導入され、皆からもすぐに受け入れられている(『うる星やつら』のようなギャグ漫画的な世界観)。それだけでなく、デフォルメ絵が『けいおん』以上に多用されているし、所謂中割の「おばけ」も頻繁に登場する。『けいおん』では常に画面内に複数人うつそうとしていたが、『たまこま』ではそういったこだわりを見せていない。何より色づかいが、『けいおん』よりもずっと原色的で明るい。高校の夏服はなかなか衝撃的だった。
 『けいおん』シリーズに描かれた有限のユートピアは、『たまこま』においては商店街という具体的な場所を与えられており、主人公たまこが既に餅屋の跡を継ぐことを決めていることから、より永遠的(無時間的)な性格を与えられている。その多幸感を表現するために、アニメらしい画面やファンタジーの導入があったとものと思われる。(ただし、有限性や時間への意識が欠如しているわけではない、むしろ逆である。)
 ところが、この劇場版では、ファンタジー要素だったデラたちにはご退場願い、画面の演出もググッと実写映画に寄せている。そのことは、たまこというキャラクターの描き方とも関係してくる。
 
 『たまこま』について、たまこがよく分からないキャラクターだという感想が散見された。それは、たまこを中心とする同心円を描くように各話を配置したことにより、実は彼女自身にあまりスポットが当たっていなかったためだろう。本作『たまこラ』は中心に回帰する、つまりたまこが主人公する話である。早熟さと幼さが同居しているたまこの複雑な性格は、テレビアニメだけでも一応理解できるのだが、この劇場版から振りかえることでより明確になる。『たまこま』は、本作をもって完結というにふさわしい。
 おそらく山田は、最初から劇場版での完結を構想していたのだろう。そう考えられる理由のひとつは、『たまこま』内にあった要素の反復や展開があまりに多いことだ。とくに、1話冒頭ですでに、「バトンや糸電話をキャッチし損ねる」というモチーフが登場する。テレビのときは、そこに深い意味が込められている風ではなく、単に主人公たまこのおっとりした性格の一部という程度だったが、本作では最も重要な意味を与えられている。
 他にもこの手の象徴が画面にあふれ、カメラを意識した様々な処理が施されて印象的に提示されていく。「単純な物語と膨大な情報量」という山田尚子の作風は、本作においていよいよ開花する。『聲の形』では、音響効果も徹底的に追究し、いっそう曖昧で繊細な空間表現を達成することで、ほとんどインスタレーションのようになってしまったが、『リズと青い鳥』はどこまで行くのだろうか。