イチロヲ

暗室のイチロヲのレビュー・感想・評価

暗室(1983年製作の映画)
3.5
美しい妻(風祭ゆき)と死に別れた小説家(清水紘治)が、亡き妻に対する悋気と妄執を秘めたまま、独身者として豪奢な女性遍歴を歩んでいく。吉行淳之介の原作を映像化している、日活ロマンポルノ。日活スタジオ70周年記念作品であり、日活系以外の劇場でも公開されている。

主人公となる小説家は、亡き妻の人間関係と自己の妄想世界をミックスさせることで、クリエイト精神を保持させている人物。妻の不倫相手と思われる友人(寺田農)との再会を契機にして、虚実不明瞭の世界に落ちていく。

結婚や子育てを理由に、主人公の元から離れていく女性たちは、ヒューマニズム(人間らしい生き方)に則った人生を歩んでいる人間。一方、結婚をしない、子供の誕生を拒む、といった性質の主人公は、ヒューマニズムから逸脱した人間。

物語は、結婚しない女(木村理恵)との交流を通して、「ヒューマニズムとは何ぞや?」という命題へと突き進んでいく。豊富なレトリックで衒学的な台詞回しをするのが耳障りだが、性の探究に勤しむ主人公の奇行ぶりを楽しむことができる。
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