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パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニストのNMのレビュー・感想・評価

3.5
感動したことを覚えていたので、二度目の鑑賞。

パガニーニはもちろん、それにぴったりと寄り添うウルバーニが印象的。
確かにパガニーニの成功には彼の知恵が役立った。しかしそれは本当に本人のためを思ってしたことでなく、全て利益のため。パガニーニの健康や恋愛などは何とも思っていない。

偉大な名声を手にした代わりに、人並みの幸せ、人を信じる気持ち、などは手に入れられなかった。本当は人に頼りたいからこそウルバーニに依存してしまったし、本当は神にこそ頼りたかったのではないか。

才能が偉大過ぎた故に、自分でもそれをコントロールできず人生を終えた。
一方、それなりの才能だったであろうコンマスは、自分の限界を見出し、無理に高みを目指すことをやめた。これも一つの選択だと思う。パガニーニのように、みんな俺の才能に平伏せ、と思い意地を張り続けていたら、いつか彼の人生も崩壊したかもしれない。ガルネリさえ手放すほど芸術にひざまずいた彼は、その後彼なりに幸せを得たのではないか。

シャーロットも、パガニーニに圧倒されそうになるも、賢く冷静になり運も味方して、彼に翻弄される人生から逃れることができた。
ただし、平凡だけが幸せかどうかは知らない。運命の波に飲まれるまま、情熱のままに生きるのも、また一つの選択だろう。

指揮者ワトソンも、この作品に明るさをもたらす愉快な演技。
娘をメイドと偽ったり、本人がいないのに演奏が始まったり、てんやわんや。いつも汗だく。
相当翻弄されたが、娘だけでも守れたならまだ良かったか。
パガニーニにもアキレウスだけは残ってくれて良かった。

まだ世に出ていないパガニーニが、バーで初めて聴衆を味方にしたシーンは感動的。
演奏は冒頭から素晴らしかったはずなのに、ここで初めて感動するのは、やはり聴衆も演奏の一部なのだと感じた。

しかし、いよいよロンドンの演奏会で成功すると、これは人生のピークだという感じが漂い、既に切なさを感じた。もちろん狙いのうちだろう。歌自体も切ない。

彼自身の音楽性は幼少期から晩年までこの作品中ではさして変わっていないのに、それが世間からの評価によって華やかにもみじめにもなったのが印象的。

エンドロールの長さに、それほどの大作であることを改めて知った。
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