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卍 まんじのtakのレビュー・感想・評価

卍 まんじ(1964年製作の映画)
4.0
谷崎潤一郎の原作に最近手を出した。今までいろんな映像作品があったけど、ビジュアルにばかり気を取られて純粋に物語を味わう心の余裕がなくて。ちゃんと原作を読んでみたくなったのでした。全編、園子が「先生」と呼ばれる人物に告白する形式で語られる物語。読み始めた時、大阪弁を文章で延々と読むなんて無理!と思ったが、情緒的な大阪弁だから、そのひと言ひと言に込められた熱情やら愛情やら複雑な思いが垣間見える気がして、意外にもすんなり読めた方だと思う。

その原作を新藤兼人の脚本で増村保造が撮ったのが本作。90分の尺によくぞ収めた。間延びせず、原作を損なわず、飽きさせることはなかった。この映画はヒロイン二人のキャスティングが絶妙なのだ。岸田今日子のネチッこい喋り。光子に夢中になっていく園子の抑えられない気持ちの切実さが、観ているこっちにも伝わってくる。
「あんたぁ、綺麗な体しててんなぁ」
その震えるような響き。一方、若尾文子演ずる光子の行動がどんどんエスカレートする様子がたまらない。これが女の魔性ってやつなのか。

園子は光子に疑念や困った様子を見せながらも、どんどん光子のペースに引きずられていく。そして園子の夫も光子の魅力に屈してしまう。いつしか光子に服従するような不思議な三角関係になっていく。ベッドに横になる二人に光子が睡眠薬を飲ませる場面なんて、絵面はもはやコントのようで船越英二の軽さも加わって何故か笑いを誘われる。原作では直接的な表現はほぼなく、活字の向こうで何が起こっているのか、どんなことをしているのか、想像を激しくかきたてられた。それだけに映画作家たちもイマジネーションを駆り立てられて、何度も映像化されるのだろう。同じ増村保造監督作「妻は告白する」の若尾文子も鬼気迫ってすごかったけど、「卍」の光子役には観客の僕らにも抗えない魅力がある。

谷崎潤一郎が描く偏った愛情の果ては、「春琴抄」や「痴人の愛」にしても、この「卍」にしてもまさに色恋の先にある奴隷的な服従だ。「恋の奴隷」って歌謡曲があるが、この増村保造監督版「卍」を観て、恋の奴隷になるってこういうことなのかと、この歳になって思い知らされた気がする。やっぱり文豪はすげえや。

Vシネマ時代に製作された、真弓倫子と坂上香織共演の「卍」も個人的には好き♡(DVD化切望)。
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