サマセット7

バウンドのサマセット7のレビュー・感想・評価

バウンド(1996年製作の映画)
4.0
100レビュー目。
監督・脚本は「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー姉妹。
主演は「ブロードウェイと銃弾」「ライアーライアー」のジェニファー・ティリーと、「ショーガール」「フェイス/オフ」のジーナ・ガーション。

5年間の服役を終えて社会復帰したコーキー(ガーション)は、マフィアの口利きでアパートの一室の修繕を任される。
同性愛者である彼女は、隣室に住むマフィア・シーザーの情婦であるヴァイオレット(ティリー)と互いに惹かれ合い、関係を持つ。
やがてシーザーがマフィアの金200万ドルを一時保管することになったことを知った2人は、その金を騙し取ることを計画する…。

後にマトリックスを撮るウォシャウスキー姉妹(当時は兄弟)の、監督デビュー作。
ジャンルはクライムサスペンス。
ほぼ限定的な空間で話が展開するため、シチュエーションスリラーとも言える。
細かく言うと、女性バディによる現金強奪もの。
その中身は、監督ウォシャウスキー姉妹のセンスが炸裂した秀逸な作品である。
以下、見どころ。

・先が読めず、全編緩みのない、スリリングな脚本。
2人の立てた計画が、ある出来事をきっかけに、予想のつかない方向にどんどん流されていく様は、実にハラハラさせられる。
酷いことになった後、部屋に2人の警察官が訪れるシーンが個人的白眉。

・強烈なキャラクター。
一見、マニッシュなコーキーがタフで、妖艶なヴァイオレットは従属的のように見えるが、時間の経過と共にヴァイオレットの肝の坐り方が尋常じゃないことになっていく。
マフィアのシーザーの狂気を秘めたキャラクターが強烈で、抜き差しならない状況に追い込まれるも、知略を駆使して難局を乗り越えようと足掻く様の演技は圧巻。
彼の行動は、スリルを高めると共に、観客視点ではブラックな笑いの対象ともなる。

・気の利いたセリフの応酬。
ウォシャウスキー姉妹らしい、キレの良い台詞回しが頻出する。
冒頭の「私の中にあなたがいる。私の一部であるかのように」。
「誘っておいて謝る女は嫌いだから」からの一連のやりとりなどなど。
一言一言が実にキレている。
特にラストを締めるセリフは印象深い。

・激しいバイオレンス描写。
「今から10回質問をする…。」
ところで人間の指は10本である…。
過激なバイオレンス描写は、失敗したら死ぬより酷い目に合うことを想像させ、ストーリーのスリルを格段に高めている。

・マトリックスを予見させる、奇抜な撮影技法と独特の美術演出。
異様に接近して撮影するカメラ。
頻出する真上からの俯瞰映像。
特に壁越しの電話シーンの俯瞰は印象に残る。
主演2人の衣装のカッコよさ。
クライマックスの白と赤の色彩の対比が印象的な演出。
シーンとシーンの、独特のつなぎ方。
色々と新鮮な演出が見られ、後のマトリックスでの超絶演出の萌芽が見られる。

今作のテーマは、裏切りと信頼か。
誰より冷徹で、誰より機略に富んだ者が生き残るフィルム・ノワールの世界において、今作で最後に笑ったのは誰か。
その勝利をもたらしたのは何か。
敗者に欠けていたのは、何なのか。
このテーマに照らすと、見えて来るものがあるように思う。

今作には、序盤に同性愛者のかなりハードなベッドシーンがある。
またバイオレンス描写もなかなか過激だ。
そのため、観る人やシチュエーションによってはオススメし辛い場合があるので注意を要する。

最後に。
色々挙げたが、この作品の肝は、「一般社会生活では、悪趣味とか、非道徳的とか言う理由で、目に触れない/目を背けがちな場面」を、映画を通してじっくりと覗き見できる、背徳的な悦びにあるように思う。
舐め回すような接写。
美女が汚水に塗れてトイレ掃除をしているシーン。
同性愛者の交流とあけすけなラブシーン。
過剰なバイオレンスシーン。
そして、何より、主役2人の計画の結果、マフィアたちの目論見が、破綻し、崩壊し、にもかかわらず渦中のシーザーが惨めに足掻き続け滑稽なダンスを踊り続ける様子。
すなわち、人が無様に失敗する様子。
作品全体に横たわる、窃視的なブラックな悦楽こそ、今作の最大の魅力のように思う。

クライムサスペンスに新しい風を吹かせてみせた、挑戦的な佳作。
なお、サングラスへの謎のこだわりが散見される点も後のマトリックスを思い起こさせる。
ラストもサングラス、最高。