つのつの

ゾンビ/ダリオ・アルジェント監修版のつのつののレビュー・感想・評価

5.0
【死者達への夜明け】
完璧。
今も脈々と続き最早一大ジャンルと化したゾンビ映画の原点にして頂点。

本作の最大の面白さは「ショッピングモールという空間で世界の終わりをサバイブする」という設定を作り出した点にあると思います。
我々が普段からよく利用する施設、つまり日常的な空間が荒廃した世界では異空間に変身することの面白さ!
何もかも揃っている場所で思いっきりはしゃげるワクワク感が最高of最高です!
しかもモール内のほぼ全てのオブジェや設備(噴水、展示用の車、ダクト、エスカレーターなどなど)が映画の展開に盛り込まれていく丁寧さ及び楽しさも素晴らしい。
ここだけでもう既に五千億点なのですが、クライマックスはマッドマックスもかくやのいかつい暴走族がそこに乱入し、主人公チームvsゾンビvs暴走族の大戦闘が繰り広げられるのも天才的発想。
だってマッドマックス対ゾンビですよ!?(笑)
ここまで楽しいエンターテイメントに満ち溢れた作品なのが、テーマ云々よりも前に偉いと思います。勿論一本の映画としての完成度もすこぶる高くて、ウェットに傾かない人間ドラマやゾンビという設定のロジカルな使い方なども素晴らしいです。だから観てない人はとにかく観て!

さらにロメロ監督が巨匠たり得ている所以としては、映画の持つエンターテイメントな部分とアート映画的な部分が同居している点があると思います。
先述した「崩壊した世界におけるショッピングモール」という舞台も、日常的空間が非日常に変わるというワクワク感も刺激されますが同時にとてもシュールな舞台設定です。
それに限らず本作には、ゾンビが人間の内臓にしゃぶり尽くすといった露悪的なゴア描写以外にも、片足を失った神父や秩序が完全に失われたテレビ番組といった荒廃した世界の殺伐さを端的に示し観た後も強烈な印象を残す描写が満載なのです。
特筆すべきは、本作屈指の名場面であるロジャーの最期のシーン。
不気味な静寂と真っ白かつシンメトリックな構図に代表されるようなデザイン性と、そこで描かれる事態が完璧に結びついて世にも美しく恐ろしいシーンとなり得ています。
これらに現れているロメロ監督の映像作家としてのセンスが、彼の作品群を映画史に残るものにしている要因の一つであるのは間違いないでしょう。

エンタメとアート性の同居だけでも十分凄いのに、さらにそこに監督のメッセージすらも同居させてしまっているのが本作の最大のポイントです。
よく言われているように、死してなおショッピングモールにわらわらと集まるゾンビの群れは、なんの意思もなく消費に明け暮れる我々人間の鏡です。
また世界の終焉という危機的状況の中でも陣地の奪い合いという争いを繰り広げる人間の愚かさ、あるいは社会の規制から解き放たれると急に好き勝手やり始める野蛮さなどへの批評的視点も持ち合わせている作品です。
ただ、このテーマをめちゃくちゃ面白くシュールな物語の展開の中から自然と浮かび上がらせていく点がとても素晴らしい。
ショッピングモールではしゃぐの楽しい!と観客が思ってしまうこと自体に、テーマがあるのです。

一つ深読みをするのなら本作は「人間の進化を逆に辿る」物語ではないのでしょうか。
世界が終わってもモールに行き物質的欲望を満たそうとする主人公達の姿はまさに堕落した現代の我々そのもの。
しかし物質的な面だけでは欲望を満たしきれない人間達はついに闘争本能をむき出しにし原始人へと退行します。
クライマックスで血で血を洗う戦闘を開始する彼らの姿には「2001年宇宙の旅」で描かれていた種の保存を目的とした殺戮を繰り返す猿人の姿が重なります。
勿論クライマックスは大変盛り上がる場面ですが、このような残酷な戦闘に興奮してしまう登場人物、及び我々観客の野蛮で原始的な本性を暴いているのではないでしょうか。
しかしそれが全て反転するのがラストシーンです。
己の本能に忠実な原始人にまで逆戻りした人間が、迫り来る強大な世界に対してそれでも叛旗を翻す。
どうしようもない理不尽を前にしても自らの尊い命を全うしようと主人公達が決意した瞬間、彼らは原始人から「進化」するのです。
これは監督が人間への希望を持っていることの表れではないでしょうか。
消費社会に耽溺し本性は野蛮で残酷な人間に絶望するのではなく「それでもちゃんと生きろよ!」と喝を入れているのです。
そう考えると原題「Dawn of the Dead=死者達の夜明け」がいかに意味深かがよくわかります。
ラストの夜明けは、確かにゾンビと化した人間世界の始まりを意味しているのかもしれませんが、僕は死人のように生きていた現代人がついにその人間性を獲得し始めたことへの希望を意味する夜明けだと思います。
だから死者達の夜明けというよりも、死者達「への」夜明けを指す原題ではないでしょうか。

最後にこんなにすべてがパーフェクトな名作を作ってくれたジョージAロメロ監督のご冥福を心からお祈りします。
あなたの映画のおかげでこの世界に生きるガッツが湧いてきました。
ありがとうロメロ監督!
つのつの

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