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ゴーン・ガールのkomoのネタバレレビュー・内容・結末

ゴーン・ガール(2014年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます



※この映画はネタバレなしで観た方が圧倒的に面白いです!※




有名な絵本作家の娘エイミー(ロザムンド・パイク)とその夫ニック(ベン・アフレック)は、誰もが羨む美しい夫婦だった。しかし結婚5年目の記念日にエイミーが行方をくらましてしまう。
連日繰り返される過激な報道はやがて、まるでニックが妻に手をかけた殺人犯であるかのような印象を全米に与えてゆく。
そしてメディアによって暴かれる夫婦の不仲、ニックの不倫、エイミーの妊娠。
テレビ番組で釈明し、妻の帰還を望む言葉を綴るニック。しかし実はこの失踪事件そのものが、エイミー自身の狂言だった。


キューブリック監督の『アイズ・ワイド・シャット』の時にも感じたのですが、これまで壮大なテーマを撮ってきた監督が突如として【夫婦】という狭いフィールドを掘り下げてくると、なんとも不安定な気持ちになります。ずっと空を見上げていたら、突然足元が崩れ始めたかのような…(笑)

そしてこの作品はグロテスクなシーンこそ一箇所しかないものの、十分ハードな印象がもたらされるサイコスリラーでした。
自分の夫にこれほどの仕打ちができるエイミーの異常性もまず恐ろしいけれど、それと同等に恐ろしかったのが【マスメディアの影響力】です。
エイミーが元々有名人だったということはニックにとって運の尽きでした。
エイミーの父が描いた絵本は『アメイジング・エイミー』。そのモデルとなったのはもちろん娘のエイミーです。彼女は米国中の愛の的であり、誰しもが最初から彼女の味方でした。
そんな彼女が失踪したとあればニュースになるのはもちろん、皆がエイミーに同情の念を抱きます。
そして痛烈に非難されるニック。それでも彼が自分の不貞を真摯に詫びると、国民の心はすぐさま変わってゆきます。
日本とアメリカでは報道のルールが異なるけれど、こういった印象操作は身近にも存在しているかもしれません。

自分自身が失踪することによって夫ニックに妻殺しの疑いをかけ、世間に裁いてもらおうというのがエイミーの計画。
遺体が出てこなくても死刑の可能性が濃厚になってしまうミズーリ州こわい……。

そして無関係の元恋人にすべての罪を被せ、無事に帰還するエイミー。
しかしエイミーの本性を知ってしまったニックは離婚を決意。そんな折、エイミーは妊娠をニックに告げます。
マスコミの前で感動の再会を飾った2人がここで離婚をしたらどうなるか。
ニックは『誘拐事件で心に傷を負った妻と子どもを捨てた男』となり、社会生活が難しくなります。結果、少なくとも生まれてくる子どもが18になるまでは離婚をしないという決断となりました。

そんなニックを憐れんで泣くのは、ニックの双子の妹マーゴ(キャリー・クーン)。この女優さんの演技が圧巻です。
ニックとマーゴの兄妹は、TVのインタビュアーから『親密すぎる』と指摘されつつも、自分たちは近親愛関係にはないと断言していました。
しかしもしかしたらマーゴからニックへはそのような愛情があったのかもしれないと思うほど、最後のマーゴの泣き姿には湿った熱気がありました。
こうして物語の本筋以外のところにも粘着質な謎を残すのがフィンチャー監督の映画らしいなと思います。

映画と最初と最後に、ニックがエイミーを見つめながら語るモノローグがありますが、1度目と2度目でまるで違う印象を受ける構造がまた恐ろしいです。
また、エイミーの異常性に関しては感情移入はできませんが、幼い頃から『完璧なエイミー』と呼ばれ絵本の中のファンタジーにされていたことへのフラストレーションの描かれ方は本当に見事だと思いました。

そして、あまりにも極端で異様な思考を持ったエイミーを生かしているのが『全米の女性の総意』だと思うとゾッとします。

愛も救いもないどころか、息すらできなくなるような、すべての感情を制圧されるかのような結末。
けれど元恋人の部屋でデザートを食べながらニックの会見を見ていたあの無防備なエイミーが、もし本当のエイミーだったとしたら、まだ少し救われます。
そうであってほしい。
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