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天才スピヴェットのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

天才スピヴェット(2013年製作の映画)
4.0
『天才スピヴェット』The Young and Prodigious T.S.Spivet(2013)

「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネがイラスト満載の原作小説を映画化。原作だと詳細なイラスト入りの地図を作成した事でスミソニアン博物館に呼ばれるという話だが映画は半永久機関を作ったと天才ぶりがパワーアップされている。

アメリカ西部モンタナ州の牧場でカウボーイの父、昆虫学者の母、女優を目指す姉と暮らす少年T.SスピベットはワシントンD.C.のスミソニアン博物館から発明を讃える賞を受賞したという知らせをもらい家族には内緒でワシントンD.C.を目指して家出する。

貨物列車にただのり、大型トラックをヒッチハイクしてアメリカ大陸の3分の2を旅する。

旅の途中T.Sの心に浮かぶのは二卵性双生児のレイトンだ。カウボーイの父親に似たレイトン。自分は母親似の学究肌。父に愛されていたレイトン。T.Sとレイトンは納屋で銃の音波測定の実験をする。弾丸詰まりを起こしたウィンチェスターライフルにT.Sが触ったらライフルは暴発してレイトンは死んでしまった。

それ以来、T.Sは父、母、姉からも心の底からは愛されていないのではないかという気持ちがある。死ぬべきはレイトンではなく自分だったのではないか。

死を扱ったジュブナイル映画『テラビシアにかける橋』を思い出した。主人公の男の子は転校生の女子と仲良くなり空想の王国テラピシアを共有する。小川をターザンのようにロープで飛び越した先はテラピシアという設定。ある日女の子が小川を飛び越えようとした時ロープが切れて女の子は水死してしまう。男の子は彼女の死から立ち直り小川に橋をかける。これも忘れられない佳品だった。

スピベットはワシントンD.C.のスミソニアン博物館に到着、親は死んだと嘘をつく。授賞式のスピーチ中いつも冷静なスピベットの口から溢れ出したのはレイトンが死んだ時の事だ。そのスピーチは感動を呼び起こしニュースショーに出演することになる。スピベットを利用しようとする都会の大人たち。スピベットの運命は?

物語は痛快で感動的な結末を迎える。「テラピシアにかける橋」では少年は成長して死を乗り越えるのだが「天才スピベット」は違う。子供は早く大人になる必要はないんだ。子供時代は親に甘えれば良いんだよ。泣きたい時は泣けば良いんだよ。君は生きていて良いんだ。君が生きていてうれしい。

この映画は家族がバラバラになる危機から再び強く結ばれる物語。それだけ。そしてそれだけで充分。あと何が必要?
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