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天才スピヴェットのTorichockのレビュー・感想・評価

天才スピヴェット(2013年製作の映画)
4.1
「The Young and Prodigious T.S. Spivet/天才スピヴェット」

ジャン=ピエール・ジュネ、その名前を聞いただけで、”お、おしゃれですね...”と恐れおののいてしまい、今までの作品も見てこなかった監督。”ミックマック”も途中でクラックラしてしまって停止してしまった僕にとって、難関の監督でした。が、本作の予告がとても見やすそうだったのと、この2年で僕もウェス・アンダーソンとか”ジム・ジャームッシュ”とかに、”おしゃれ映画シゴキ”を受けたので、なんならなんなら精神で、満を持して鑑賞してきました。

まず2014年に僕が見た映画の中で、本作の3D表現は完璧なまでに良かったです。3Dは個人的には得意ではないんですけど、T.Sの想像力が3Dで表現される手法はシンプルだけど、とても意義のあった表現に思えました。3Dで見れてよかったです。
うん、美しかった。

お話の流れは、齢10歳のT.S.スピヴェット君が、磁力による永久運動の理論?を生み出して、栄誉ある化学の賞に選出され、その受賞スピーチをするために、家族に内緒でモンタナからワシントンDCまでひとり旅に出る男の子の、心と冒険を描いたお話です。
繊細な心を持ったスピヴェット少年が、帰る場所を探しに旅出る映画でもあり、家族にとっても大切なものを失って壊れかけた家族の再生を描いた物語のように、僕は思いました。

天才少年が語る科学的な言葉が、そのナイーブな心を傷つけまいと自身を理論の毛布で包んで苦しまないようにしているようで、その繊細さに胸がぐっと熱くなるシーンが多かったです。
たとえば、

”水滴が素敵なのは、最も抵抗のない道を通るから”

裏を返せば、心のまま自然でいられることにする憧れ、つまりは失われてしまった彼の分身でもあった弟のことをだったように感じたりして、涙流してました。
比較対象にあげるのは申し訳ないですが、兄弟(姉妹)を描いた本年のハイライト”アナと雪の女王”に比べても、僕はこちらの方がぐっときました。
”宇宙兄弟”に近いものもあるかもしれません。
本作の中でもとても印象深いのは、列車の貨物室に住む変なおっさんとの会話シーンです。

”ほかの木たちはスズメを木の中に泊めることをいやがったけど、松の木だけはスズメを守ってくれた。
神様はスズメを守らなかった罰として、ほかの木を冬に枯れされることにした。”

変人で、弟に比べても愛されるほどの人間でもないと思っていたスピヴェット少年が、物語の最後には、自分が自分の想像以上に愛されていたことを知る。そして彼自身も、何よりも家族を愛していたことを、この旅で知るんです。それは、家族がお互いを包みあうことの尊さを描いているんだと思います。
松の木とは家(HOME)であるということです。
その証拠に、母に強く抱きしめられることが、この映画のゴールのようにも見えたし、物語の最後の発明は、賞やテレビや他人からの賞賛のためではなく、家族のために発明をしたのではないでしょうか。

とても素敵でかわいらしくて、突き刺さる家族映画でもあったし、母の名言

”凡庸さは心のカビ”

という言葉は、誰かの物差しや尺度に収まろうとしたり、自分の中で自分を凡庸に追いやってしまう、臆病だったり想像力のなくなったりしてしまった大人(僕)に対する戒めにもとれました。
しびれました、目を覚まさせてくれる映画でもありました。
”6歳のボクが、大人になるまで。”に引き続き、子供を育てるという視点でも、見れて本当に良かったです。まぁ、なんもないけどな!!

あと、お姉ちゃんがかわいかったです。
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