デイジーベル

インヒアレント・ヴァイスのデイジーベルのレビュー・感想・評価

インヒアレント・ヴァイス(2014年製作の映画)
3.7
「バカバカしくて笑えるのに悲しくなる物語」

方向感覚を失わせる、固有名詞の多さと煙の中に居るように感じさせる演出が、この作品を″難解″と感じさせる。しかし、その難解さが不明瞭な1970年代の、グルーヴィーな世界に迷い込む感覚に酔いしれる楽しみも同時に生み出している。更に登場人物たちが個性的で魅力的(しかもかなりセクシー)だ。

◯ストーリー◯
_(:3 」∠)_ ヒッピー探偵が元カノから依頼されて、不動産王の失踪事件を調べる。

●感想●
全てが順調だった60年代(過去)と何もかもうまくいかなくなった70年代への移り変わり(現在〜未来)を皮肉的なブラックユーモアをもって描いている。
「インヒアレントヴァイス(内在する欠落)」は誰(何)にでも在るものだ。(この作品の主人公には元カノに当たるのだろう)
それは、満たされない(うまくいかない)今が生み出す過去への″未練″であったり、現在の不満や不安から生まれる、未来への″希望″。しかしそこには60〜70年代(過去)への″郷愁″を感じる。これは「ブギーナイツ」を観た時に感じたものと同じだ。
みんなが何かしらの過去のトラウマや後悔から抜け出し前に進む中、主人公だけが取り残されていく(変わらない)感じを受けてしまうラストシーンは何とも切ない。(エンドロールに流れるChuck JacksonのAny Day Nowが2人の未来を暗示していて、更に切なさを助長している。)
きっと何も変わらない(取り残される)事は、″孤独″に繋がってしまうのだろう。時代の流れの″残酷さ″を浮き彫りにしつつも、きっとそれは時間が解決してくれるものだと信じたい。

「失恋はハイウェイの出口のようなもの。しばらく悲しみの道を走れば、またハイウェイに戻れる。」

この時代のアメリカの闇(それは現代社会に於いても変わらない部分もある)をブラックユーモアに包み、皮肉たっぷりに発信している作品ともいえる。


笑って観てても、最後にはちょっと物悲しくなってしまう。それはきっと僕達にも″欠落″した部分があり、ノスタルジックな気分になってしまうから。それらを含めて愛おしくも感じる、大人の雰囲気を楽しめる作品だ。