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インヒアレント・ヴァイスのpikaのレビュー・感想・評価

インヒアレント・ヴァイス(2014年製作の映画)
5.0
初めて見たときにスーパーツボにハマったのでBlu-rayを買い、原作を読み(初ピンチョン!)久しぶりに見てみた。
原作を読んでいる途中で見たからか、まんま原作通りであることの凄さをタイムラグなく実感した。台詞やシーンはほぼ原作通りに映像化していて驚いた。有名なパンケークゥ!のくだりも一語一句違えず映像化しててワロタ。シーンが前後していたり台詞のタイミングやキャラが変わっていたりと細かいところは違うんだけど、人物を減らしてストーリーもシンプルに集約しつつちゃんと原作通りにまとめてる。説明なくポンポンとキャラが出ては消えていく演出や唐突な場面転換は、原作の雰囲気をそのまま映画へとスライドさせつつ長編作品を映画一本でまとめる効果にもなってて上手い。

ワンカットだけのシーンがめちゃくちゃ印象的。ゆっくりズームするだけとか、フォーカスをあてた人物以外見せない演出も面白い。モブキャラが首から上だけ切られてたり、背中だけだったり、場所もキャラクターのいる一角しか見せない。
ソルティレージュの唐突さはナレーションを言う立場だからとか、ドックの心の相談相手みたいな立場だからとか色々ありそうだけど、出てくる女性キャラが全員実存感なくてそこも面白い。特にシャスタは後半出てきても過去のイメージに見える。
麻薬でラリってるから、ヤク中のパラノイアだからってので、現実なのか妄想なのか曖昧になっているようにも取れる演出が独特。全部妄想とか、全部現実とか、部分的にとか、どれにも取れる。
コーイを撮った写真が最後の晩餐のような構図になってるところは原作通りなんだけど、映画の方がさり気なくかつインパクトがある。
歯科医に会うところで、ドックが「ヤク中のヒッピーよろしくラリった表情にしよう」って言ってパッと表情を切り替えるところも、原作はそう思考の流れが書かれていて面白い部分で、映画は説明がないまでも原作を読んでいると切り替えているのがわかるように撮ってて面白い。

ラスト付近で車を向かい合わせてやり取りするシーンにPTAらしさを見て、やっぱこれがPTAベストだわと改めて感じた。原作ではもっとリアリティある構図なので、映画映えというか自分の色を出しているショットなのかなと。

映画は一般的にウケやすいようにドック個人の元カノに対する感傷や、コーイとビックフットのドラマが前面に出ている印象がある。原作はそれと平行しながらも、時代や社会に対する批評みたいなものがより前に出ている。映画にもちゃんとその要素はあるんだけど、前には出さず探偵ドラマのメインストーリーを邪魔にせず雑念にもさせない絶妙なバランスで残していて上手い。原作を読むとそれらが繋がるようになっていて、映画化(映像化)したときに見たいところがちゃんと再現されている。
映画化成功作の一本だと思いました。


2018.2.26【1回目】
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