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フランシス・ハのsensatismのレビュー・感想・評価

フランシス・ハ(2012年製作の映画)
4.0
2020/104
等身大の人間(こじらせ女子でもなくアラサー女子でもない人間)を丁寧に描いて肯定する映画。
志を抱き夢見てNYに来たは良いもののほとんどの人間の現実はこんなもんだよ、でも淡々ながらもそこそこ明るく生きていけるんだよってことを示してくれる。
NYなんて家賃も物価も多分どうせ高い。見習いダンサーには映画代さえもきつい。そんなNYのマイルド貧困もさりげなく描写されていた映画。

フランシスは部屋掃除できないし、靴下履きながらベッドで横になるし、見栄張って嘘つくし、頑固だし、空気読めないし、ダンサーを名乗るもののそんなに上手じゃない。大好きだったソフィとの暮らしも終わりを迎えて彼女は東京に引っ越してしまうしね。
人生空回り。
本人もそれを分かってるしそれなりに傷付いてる。
でも彼女の強みは負の引力に引き摺り込まれないところ。自分を卑下することも慰めも必要としていない。貧弱な自我とは正反対。とてもカッコいい。
住まいを転々として覚束ない生活を送っていたフランシスがダンサーになることを諦め事務職に就き振付も始める。自立の証拠にアパートを借りて一人で暮らすようになる。新しい郵便箱に名前を書くが枠に収まりきらず「フランシス ハ」という標識が出来上がる。上々な再スタート。

ソフィとの関係性も素敵ね。
大好きな冒頭2分。
喧嘩ごっこ、タバコを片手に窓辺越しに議論する2人。

"私が恋愛に求めるのはある特別な瞬間よ
だから恋人がいないのかも(haha)
貴重なことなの
誰かと同じ空間にいて特別な存在だと自分も相手もわかってる
でもそこはパーティー お互い別の人と話してる 笑って楽しんで ふと部屋の端と端で目が合う
嫉妬でも性的な引力のせいでもない
相手がこの人生での運命の人だから
不思議で切ない
人生は短いけどそこに2人だけの秘密の世界があるの 他の人達からは見えない
私達の周りにはそんな次元がある ただ気づいてないの
それが私が恋愛に求めるもの
人生にかな
愛にか"

この台詞が回収される場面が好きだった。
フランシスの舞台終演後部屋の隅と隅でお互い別の人と喋ってる。フランシスがふとソフィに視線を投げるとソフィもフランシスを見返す。お互い喋りつつニコニコ。
この時のフランシスの嬉しそうな表情。
今、"特別な瞬間"を手にしてるんだって自分で実感してる感じだった。

待ち伏せ相手が見えた瞬間に"Ahoy sexy!"っていうつまらぬギャグを言ったり、喧嘩ごっこしたり、大抵の人間には分かってもらえないことをソフィと分かち合える。
「あーあ、あの子だったら面白いって言ってくれるのに」って思い浮かべることができるあの子がいる幸せよ。
2人だけが理解できる内輪話。確かにそういうパートナーが理想的だ。

あまり詳しくないが音楽含め昔の映画のオマージュシーンが多いらしい。おフランスっぽさがあるこの感じ、ヌーヴェルヴァーグというらしいが、古典的でありつつもモダンな空気感が醸成されているバランス感覚も好きだった。
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