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フランシス・ハのymdのレビュー・感想・評価

フランシス・ハ(2012年製作の映画)
4.0
ウェス・アンダーソンの『ライフ・アクアティック』と『ファンタスティック Mr.Fox』の脚本としてのイメージが強いのか、勝手にファンタジーよりの作家だと勘違いしていたノア・バームバック監督作を初めて観たのだけど、ファンタジーとは正反対のめちゃくちゃヒリヒリしたリアリティのある映画だった。

最近話題になった『マリッジ・ストーリー』もあるように、この人は元来リアリティのある人間ドラマを描くのが巧いのかもしれない。

過ぎ去ったモラトリアムにすがり続けるフランシスの姿はどうしようもなくみっともなくて情けないのだけど、そのひたむきに夢を見続ける彼女は、”大人になる=労働する”縮図に収まった自分のような人間にとってはある意味では眩しく映るし、だからこそ彼女の周りには一時だとしても人が集まってくるのだろう。

だらしなくて大人になりきれないけど憎めないやつ、という点ではフランシスは、今年の邦画傑作『劇場』における永田(山崎賢人)にも似たものがあるかも。

ただし、夢を見続けることは決して容易なことではないし、必ず終わりが来るということをこの映画は残酷に映している。

彼女の周りの人間たちはどんどん現実と向き合い離れていってしまうが、彼女はそれをうまく受容することができず、孤立を深めていくことになる。その描写がとにかく真に迫っていて、なぜだか共感性羞恥を感じて居心地が悪くなってしまう。

だからこそフランシスが少しずつ歩みを進めていき、孤独と葛藤を超えた先に見せた表情にはつられて笑顔になってしまったし思わず泣きそうにもなってしまった。

タイトルの意味するところも同じで、ささやかながらも力強い演出は感動的ですらある。こういうの好きだなぁ。

女性が主人公だし、日本の宣伝も女子モノであることを推しているようにも見えるけど、今作は性別関係なく、青春を超えたすべての人が観るべき傑作であると思う。

長編映画としてはかなり短尺だけど、物足りなさはなく、とても気持ちの良い読後感だった。
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