もっちゃん

ウォーリアーのもっちゃんのレビュー・感想・評価

ウォーリアー(2011年製作の映画)
4.4
トム・ハーディの僧帽筋がすごいことになってます。何を食べればあんな体になるのやら。

いつの時代にも「戦士」というのはいる。闘う目的は違えど、何かを賭けて闘っている。誇り、家族、義理、様々あるが一度リングに上がればそんな物はよそに追いやり、闘わなければならない。一人の戦士として孤独に闘う。

だが、リングの中だからこそ通じるものがあるのではないか。リングの中でしか交わされない「対話」があると私は思う。抱きしめ合う代わりに殴り合う。何とも不器用だが、愛おしい家族の「和解」の物語だ。

メルヴィルの『白鯨』を下敷きにしているのは見ての通りであるが、原作ではキャプテンが宿敵・白鯨に憎しみと憧れの相反する感情を抱いていった。今作の白鯨は誰だろうか。それはトミーにとっての父親であり、父親にとってのトミーであり、ブレンダンにとってのトミーである。もしくは、三人にとっての白鯨は複雑に絡んでいるといえるかもしれない。三人にとって憎悪の対象は同時に憧れの対象であるとも言えるのだ。

そして、そんな複雑な感情は現実の世界ではぶつけることはできない。「格闘」という異常な空間だからこそ彼らは本音をぶつけ、「和解」のプロセスへと至るのである。
傷つけたくないのに、傷つけなくてはならない。抱きしめたいのに、きつく当たってしまう。ラストは見ていて辛いが、避けては通れない道なのかもしれない。

しかし、アクション映画というのはほとんど見ない自分も燃えるような熱い何かを感じてしまった。トレーニングシーンは大幅に省いてはいたが、それに余るほどの充実した戦闘シーンがあった。臨場感が凄まじい。
格闘の申し子のようなトミーはまさに瞬殺で嵐のようにリングを去る。鍛え上げられた肉体と誰をも寄せ付けない風貌。孤独な過去を抱えたトミーを演じ切れるのはトム・ハーディを置いて他になし。
そしてブレンダンは大きなブランクがある中、精神力と持久力で勝負する。決して強そうではない彼はボロボロになりながらも、一瞬のスキをついて「絞め技」で倒す。
戦法も考え抜かれていて、人間ドラマだけでなくスポーツものとしても十分楽しめる。