えいがうるふ

大空港2013のえいがうるふのレビュー・感想・評価

大空港2013(2013年製作の映画)
5.0
昔観た「ラジオの時間」の視聴記録メモがあまりにケチョンケチョンで我ながら何様だろうと思ったので、その後自分がなるほどドラマの巨匠!と三谷幸喜の面白さを見直したこの作品のレビューを再掲しておく。

何も知らずに初めて見た時ももちろん面白くて、無駄がなく見事なまとめ方だなぁ、やはりこの人の才能はダラダラ冗長にシーンをつなげた長編映画より舞台的な勢いと潔さのある短編でこそ活きるのだなと感心したものだが、完全にワンカットだと後で知って驚愕したものだった。
それを踏まえて改めて観るとこれまたさらに面白い。そもそも出来上がった作品のクオリティが高いうえ、制作陣の苦労が見えないぶん想像が掻き立てられ、本編よりその舞台裏を面白おかしくエンタメとして見せる前提で作られた「カメ止め」より、やはりその待ったなしの真剣勝負が面白いのだ。結局あのシーンもこのシーンも確かめてみたくなり、それから何度観たことだろう。

地方空港ならではの設定とその舞台のメリット・デメリットを最大限活かした演出も面白く、豪華キャストも惜しみなく美味しい役どころで観せてくれる。
そもそも出演者が好きな役者だらけなのだが、胡散臭いオダギリジョーに血迷う神野三鈴、勢い余って噛みまくるもそれがちゃんと役にハマってる生瀬勝久、に負けじと最高の顔芸で応える香川照之、美貌のビッチがハマりすぎの若かりし戸田恵梨香、今作で初めて存在を知った若かりし池松壮亮の観てるほうが恥ずかしくなるような芝居がかった熱演も初々しくも可笑しい。

なにより、この作品で女優竹内結子の恐るべき力量を思い知らされた。ほぼ出ずっぱりで凄まじいプレッシャーだろうにこの余裕ある演技。個人的に彼女の出演作ではこれが最高傑作ではないかと私は思っている。
公開時の彼女と三谷監督の舞台挨拶をYoutubeで観ることができるが、その撮影裏話が想像以上に過酷で唖然とする。本番撮影前日にようやく完成したシナリオを渡され泣きながら覚えたとか、その上で監督が役者のさらなるアドリブを引き出そうとわざと直前に変更したシナリオに役者同士で必死で対応したとか、そんな話をにこやかに語る竹内さんの笑顔が眩しい。
そんな彼女の新作がもう観られないなんて。嗚呼・・・合掌。

ともあれ、きっかり100分の生芝居ならではの疾走感、役者全員がお互いへの信頼感を頼りに作り上げるジャム・セッションのような一体感が素晴らしい。100分間を役者と共に走り抜けたカメラマン山本英夫氏をはじめ、その間ファインダーの外側でもずっと演技を続けていたエキストラの皆さんまで、全てのスタッフと役者陣の職人芸に、何度観ても拍手を贈りたくなる。
竹内結子さんへの追悼の気持ちも込めて、改めて満点献上。