emily

南へ行けばのemilyのレビュー・感想・評価

南へ行けば(2009年製作の映画)
3.0
夏の北のフランス。一人南へ向かっていた青年サムは、マチューとレアを拾い、一緒に旅を続ける。ゲイのマチューはたちまちサムに夢中になり、微妙な距離関係を続ける二人、そこにレアがナンパした青年ジェレミーも加わり4人の旅が始まる。サムには誰にも言えない過去の悲しみがあり、南を目指しているのにはちゃんと目的がある。

 とにかくジャケット写真にもあるように若き頃のレア・セドゥの金髪と、ハンディで捉える絶妙な表情が猫みたいにかわいくて、彼女のPVを見てるかのように見せられる。黄色と赤がレトロポップな色彩のコントラストを生み出し、寄り添う海や田舎の街、瑞々しい絶妙な距離感の四人をあっけらかんと描写しつつ、サムの過去をしっかり交差させ、徐々に徐々に核心に迫っていく、サスペンス感もある。同じ過去を共有している弟に会いに行くも、彼は自分の人生を手にし、ちゃんと前向いて進んでいた。サムだけはあの時のまま、あの時の残像を背中に自ら背負い、止まった時間の中で、なんとかその時間を動かそうとしている。4人の旅はかみ合わないようにみえ、サムは過去に向き合い、自分に向き合うきっかけを与えてくれるのだ。

それは見ようとしなかった、向き合おうとしなかった、大きな心の穴と自分自身のこと。そうして目的地は同じでもその目的は変わっていくのだ。誰かを憎んで誰かのせいにしてきた20年も、出会う3人の青年たちとのかかわりを通じて、止まった時計の動かし方を思い出す。人を変えるのはやはり人の力であり、それは意外と何でもない人の出会いだったりする。それでも南へ行こうと決めた時点で、その時計はすでに動き出す準備ができていたのかもしれない。
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