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リトル・フォレスト 夏・秋のdeenityのレビュー・感想・評価

4.0
田舎暮らしで自然に囲まれながら、便利とはほど遠い環境の中で生活をする。その中で一人必死に生き抜く女性が、自然と共存し、その土地の食材を、環境を活かした料理を作る。そんなスローライフを切り取った作品。夏・秋のそれぞれのパートでそれぞれ異なった食材や環境の中での料理。それだけの映画なんだけど、ものすごく心地が良い映画でもある。

料理も特に彩りがいいとか華やかさがあるわけでもない。高級レストランとはほど遠い、派手さのない地味で夢が溢れるような料理は出てこない。
それでも無性に食べたくなるほど美味しそうに映る料理の数々。食材の旨みや手間をかけて丁寧に作られた思いがそこにはこもっていて、口に入れた瞬間にじんわり染み出てくるように思える。和食がなぜ文化遺産に選ばれたのか、ということが実感できるような、そんな良さがある。

この作品で何が良いって一品一品に対して感想をはっきりと言わない点だ。テレビのリポーターのように「美味しい!まるで宝石箱やー!」みたいな表現もそれはそれで夢が溢れる表現なのだろうが、そうではなくて、ただ淡々と頬張るだけで言葉以上に美味しさが伝わってくる。
語りは多い。その食材や土地柄について。しかし、料理の味に関してはあまり触れない。橋本愛演じるいち子の間や表情一つで感じとることができるから。そりゃ家で一人でいる時に「美味しい!まるで…」みたいなことは言うはずがないわけで、それこそ自然なのである。(悪意はないですよ、彦○呂さん笑)

かつてはあった日本人が自然と共存しながら生きていく日々。それを実感することができ、また、そこに帰属意識すら思わせるほどの魅力がある。
ただ、やはり生きるということは生をいただくことであって、野菜ならまだしも鴨は確かに重かった。当たり前のように普段は好んで肉を食べるのだけど、工程を見るとやはり残酷で、それでも生きていくためにはそれも必要なことで。生きるということと向き合わせてくれる作品でもあった。

まだ冬・春編もあるのでそちらも必ず見よう。
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