新潟の映画野郎らりほう

夢は牛のお医者さんの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

夢は牛のお医者さん(2014年製作の映画)
5.0
【刻印された夢の聖画】


少女が両手で牛を抱き締め、接吻でもするかの様に 自らの頬を密着させている - まるでイコン(聖画像)の様な純粋性溢れた神々しき画に、思わず言葉を失う。
- ポスター初めとする各ヴィジュアルワークでも大きく取り上げられている象徴的場面だが、このショットがあまりに美しく、且つ作為性無しで撮られている事に感嘆する。

『最初は五分程のニュース映像を撮影するだけのつもりだった』-上映後舞台挨拶で監督時田美昭はそう述懐していたが、その時田が この牛との抱擁場面に激しく打たれ 更なる長期取材を決意したであろう事は想像に難くない。
それほど この牛との抱擁場面は《更なる物語》を感じさせて止まぬ驚異的求心性を有している。


果たして その予感通り、幼少期の眼差しそのままに成長する知美さんの真っ直ぐな歩みに心服する。


第一次産業周辺従事。動物及び隔世世代間交歓の必要性。幼少/学童期と社会/青年期とをシームレスなものとして繋ぐ学業の枢要性。そして 現社会体系下に於ける生き物の命 等、各因子共興味深い。


受験の合否を伝えようと 故郷と繋がった受話器を手にするも、言葉失い突き伏せてしまう知美さんに、受話器の向こうから祖母の優しい声が谺す…。
- 敬仰に胸衝かれると共に、否応無く顧慮省察せざるを得ぬ「私自身の嘗ての夢」。その隔絶に慙愧と戒飭を憶えた。

知美さんはタイムカプセルには埋めなかったのだろう。常に傍らに置き 共に居続けた -自らの夢と- 。




《劇場観賞/時田美昭監督新潟市舞台挨拶付上映》