のび

のびの感想・レビュー

リスボンに誘われて(2012年製作の映画)
3.0
1冊の本と出会い、そこに書かれた物語をくぐり抜ける。その過程で読み手の心境やものの見方に少しずつ変化が起こり、その本を読んだあとでは読み手の人生の有り様や世界の成り立ち方が大きく変わって見える。そんなふうに1冊の本を読むことで人生の方向が大きく変わったという経験は、読書する人なら多くの人が体験したことがあるだろう。

映画『リスボンに誘われて』は、主人公の老教師グレゴリウスがたまたま1冊の本を手にすることからはじまる物語。死と背中合わせに書かれた1冊の本が読む者の心をとらえ、人生をよりよき方向に導くことを描く。

「人生の重要な分岐点、生き方が永久に分かれる瞬間に騒々しい演出があるわけでもない。実際は人生に変化をもたらすものは、密やかに忍び寄る」。本作に登場する本の著者・アマデウの言葉のとおり、グレゴリウスの人生もまた変化をしてゆく。まるで本を読むときのように、ゆっくりと。それは本人が気付かないくらいに密やかに。本作はその変化の軌跡を描く。

だからこそ、グレゴリウスがそれまで歩んできた人生をもっと描いても良かったのではないか、という物足りなさを感じる点が少し残念ではある。いくら人生に倦怠を感じているとはいえ、グレゴリウス自身も年齢を重ね、別れた妻との生活や高校の教師生活で積み重なったものがあるはずだ。そのあたりの描写がもっと丁寧にあれば、本作はより深みのある映画になっただろう。