ブラックジャック役に宍戸錠というキャスティングで当時物議を醸し出した作品。
手塚治虫はブラックジャック役の宍戸錠を見たとき、「こんな人間がどこにいる!」と発狂したそうだ。
何故そんなことを言ったかというと、このブラックジャックがあまりにも原作を忠実に再現しようとし過ぎ、肌の色や白髪も完璧にトレースしてしまったのである。
確かに顔面が灰色の宍戸錠はかなり異様で、いいおっさんがコスプレしているように見えなくもない。
大林宣彦は手塚ファンで有名で、恐らく原作のイメージを変えることが畏れ多かったのかもしれない。
宍戸錠以外も、この作品の空気感はかなり原作に忠実である。またブラックジャックが狂言回し的な役割という点においても実は原作に近いのかもしれない。
大林宣彦の映像は美しく、32年経った今でも色褪せることはない。
DVDのはじめにはご丁寧に今作がシネスコであることを説明してくれる。大林宣彦のこだわりは凄まじいと痛感させられる。
きっと大林宣彦は善人なんだろう。
原作にある毒がまるでなくなっているのである。
この部分がおざなりになっていることで、全体的にぬるくなっておりどうも締まりのない作品になってしまっているのだ。
原作への愛情が、ここまで完璧なトレースを実現させたのだろうが、物語の本質までは再現できなかったのが残念でならない。