TAK44マグナム

スウィング・オブ・ザ・デッドのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

3.1
どいつもこいつも死人。


ゾンビパンデミックによって、どうやら秩序が崩壊、少数の生き残りしかいないらしい世界を主人公二人組が目的もあてもなく旅を続けるロードムービーです。

かなりの低予算作品であることは想像に難くなく、登場人物もゾンビを除けば僅かに5人だけ。
しかも主人公たち以外の出番は数分。
更に、ゾンビの数も終盤を除けば数えるぐらいしか出てきません。
そんななので、大規模なパニックものを観たい場合は率先してチョイスから外すべき作品でしょう。

まぁ、野郎2人がキャッチボールしたり、釣りをしたり、歯磨きをしたり、りんごを食べたりするところを延々と見せられるので、面白いかと聞かれると困ってしまうタイプですね。
面白くはないと答えるしかないかなあ(汗)
どちらかというと「興味深い映画」だと思います。

いつもヘッドホンで音楽を聴いているミッキーは現実逃避の傾向があり、一方のベンはというと順応性があってサバイバリビティが
高く、どこか達観しているキャラクターなんですね。
ミッキーは以前の生活をいつまでも引きずっていて、ベンはとにかく死なないように旅を続けている男。

そんな2人の旅も、ある出来事をきっかけとして、呆気なく終わってしまいます。
閉塞感の極みの様なラスト20分は、それまでの自由で開放的だった旅の場面と比べると、まるで手足をもがれたかのように2人の男を追い詰めてゆくのです。

たぶん、監督(製作と主演も)はゾンビ映画の父であるロメロが好きなんでしょうね。
ジョージ・A・ロメロは、社会風刺のためにゾンビという題材を使っていたわけですが、要は現代人の多くは生きる目的を失った死人同様なんだと説きました。
生き残りもゾンビも、理性があるかないかぐらいの違いでしかなく、どちらも日々をあてもなく暮らしているのは同じではないかと。
そして、一番恐ろしいのは理性を失ったゾンビではなく、理性を持ちつつも狂っている人間の方なのだとも。

そのどちらも、本作で描かれています。
ただひたすら旅するしかないベンたちは最早死人も同然だし(ミッキーは抗おうとしていますが)、彼らを窮地に追い込むのは他の生存者なのです。

ロメロは作品ごとに、一軒家、ショッピングモール、軍施設と、舞台の規模を変えながらも一貫して「人の愚かさ」を描き続けました。
後年に作品になると、ゾンビの方が、より人間的にさえなってゆきました。

本作も、ロメロの遺志を継ぐかのように、死人同然であったベンが「あるもの」を失い、その結果として既に失っていたものを取り戻すというラストでした。
取り戻したものとは、人が人らしく生きてゆくために必要な、大切なものです(この場合は非常に暴力的なのですが)。

この着地点があればこその映画だと思うので、(あくまでも想像ですけれど)作り手の言いたい事が理解できないと退屈なロードムービーで終わってしまうでしょう。

面白いとは思えませんでしたが(唯一、ゾンビのボインでオナニーする場面は笑えました)、セリフの応酬やら音楽の使い方やらで観せきってしまうパワーはありました。
絶望感と臭気が漂う長い長い車内の場面の果てに待つラストをどう捉えるかで評価が変わってくるような気がします。
個人的には、あと少し先まで観てみたかったなと思いましたが、それは野暮かもしれませんね。


NETFLIXにて