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紙の月の教授のレビュー・感想・評価

紙の月(2014年製作の映画)
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吉田大八監督の映画は「美しい星」そして「桐島、部活やめるってよ」と来て3作目。

女性が主人公のフィルムノワールというか、クライムサスペンスというか。
実にハードボイルドでドライな作劇が見事。
現実的には「横領」という誤解を含めたある意味で俗っぽい犯罪に手を染め、年下の若い男と一緒にいたいため、とかなんとか。
卑近で低俗な犯罪者に過ぎない宮沢りえ演じる梨花だけども、泣きわめいたり、過度に悪びれたり被害者ヅラも見せない演技、そしてゆらぎのある表情のみで物語を語るその力量が見事。

脇を固める大島優子も小林聡美も、池松壮亮も田辺誠一も、とにかく腹芸というか、とにかく「やだみ」を孕んだとにかくあらゆるシーンにおいて嫌な予感しか感じられない悪い顔が並ぶ。
とにかく役者陣は全部良い。

そしてその役者のアンサンブルと、時系列、そして心理描写をさりげなく入れ込んでくる情景の描写。

特に、サラ金に電話をかけてるあの緑の電話機の公衆電話ボックスという空間の閉塞感とか、小林聡美が追い詰めていくときのパソコン画面のレトロな感じとか…舞台を90年代に設定している点から浮かび上がるある種の「過去のガジェット使い」によるノワール感がたまらない。

そしてキーになるセリフに呼応させてのやりとりとジャンプカットの巧みさ。
本当に非俗でゲスな話になりそうな手前で、バブル経済が崩壊しつつ、まだそれでも豊かさへの憧れと享受に甘んじていた時代の空気とともに描く。

そこで描かれる本質は「犯罪、ダメ!」ということではなく、あの梨花の人生にとっては、ただただ自分が幸せになりたいだけの行為として、そして、罰を受けるなんてことよりももっと先にある、もっと向こう側にある真実をまだまだ求めていくぞ、という善悪を前提しない、しっかりと個を見つめた日本には稀有の映画として本当に面白い。

あらゆるシーンの美しさや展開の見事さに感動が最高潮になったとき。
ベルベット・アンダーグラウンドの「ファム・ファタール(運命の女)」が流れた時にはぶち上がり。

色んな出来事に対して安易にわかりきったような、悟りきったようなゴールには行かない!悪夢を見せるんだ!という心意気に率直に感動した。
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