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ニンフォマニアック Vol.1のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ニンフォマニアック Vol.1(2013年製作の映画)
5.0
【インテリ推論、もしくは醜悪なマンスプレイング】
※本レビューはnote創作大賞2025提出記事の素描です。
【上映時間3時間以上】超長尺映画100本を代わりに観る《第0章:まえがき》▼
https://note.com/chebunbun/n/n8b8d6963ec5a

ラース・フォン・トリアーが放つ5時間半におよぶポルノ叙事詩『ニンフォマニアック』は、目を覆いたくなるようなショッキングな性描写、暴力描写が数分に一度飛び込んでくる拷問のような作品である。しかし、本作ほどマンスプレイングの愚かな思考ロジックを的確にイメージに落とし込んだ作品はないだろう。

セリグマンは路地で倒れている女性ジョーを連れて帰る。|色情狂《ニンフォマニアック》と語る彼女の人生に耳を傾けていく。映画は、二人の対話を軸に構成されていく。各章は、イコンや壁のシミを軸にタイトルがつけられ語られていく。ジョーの話はショッキングで常軌を逸した内容が多い。イメージし辛い内容をセリグマンはフライ・フィッシングやポリフォニーといった異なる概念を当てはめながら理解しようとする。その理論はジョーの人生から脱線したものではあるが、逐一、概念を説明し理解した気でいるマンスプレイング仕草を積み重ねていく。対話は瞬発的な運動である。異常さを言語化しようとした際に、手頃な言葉を掴むも、それがあまりに表層的であるが故に生まれる笑いとして数学用語を用いているところが『ニンフォマニアック』の面白さでもある。特にジョーの性行為をフィボナッチ数列に例え、「フィボナッチ数列とはなにか?」をしたり顔で語り始める場面は本作最大の発明であろう。だからこそ、セリグマンに待ち受けるクライマックスの醜さに笑えるものがある。

『ニンフォマニアック』ではあまりに強烈なスペクタクルであるが故に、演出意図が手元から滑り落ちてしまいそうな場面がある。ジョーが大勢の男性の陰部をイメージする場面だ。フラッシュ暗算のように男性の陰部が映し出されショックを受けるのだが、その直後のセリグマンに注目してほしい。頭に「?」を抱いたような顔をしているのである。確かにジョーは信頼できない語り手の側面は強いものの、虚実はどうであれ、痛ましき性体験を重ねて来たことは事実である。つまり、男であるセリグマン以上に男を見てきた様をアイロニカルに描いているのである。10年ぶりに観直してみて、この場面が本質的に鋭利なことに気づかされたのであった。
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