うめ

グレート・ビューティー/追憶のローマのうめのレビュー・感想・評価

3.8
 昨日の『きっと ここが帰る場所』に続き、パオロ・ソレンティーノ監督作を鑑賞。初老の男性ジェップがローマを歩きながら、人生を見つめ直す様子を描いた作品。第86回アカデミー賞外国語映画賞受賞作である。


(以下、いつも以上に思ったことをだらだら長々と書き連ねております。いつも以上にわかりにくいかと…(笑))


 『きっと ここが帰る場所』はアメリカを舞台にした元ロッカーのロードムービーだったが、今作もローマ内で範囲は狭いが、一種のロードムービーと言ってもいいかもしれない。それはジェップが現実や記憶、幻想といった様々な次元でローマを眺め歩いているからだ。夜の狂乱、清々しい朝の庭園、若かりし頃の夏の記憶、彼女との出会いの海…ジェップは様々な場所に思いを向ける。

 それは『きっと ここが帰る場所』と同様に、自分を見つめ直す旅でもある。若い頃に執筆した本が売れてから、夜に派手なパーティーを繰り広げ、朝帰宅し夕方まで寝るという日々を送るジェップ。本は書かず、若手アーティストのインタビュー記事を書く仕事を時々こなすだけ。そして65歳の誕生日パーティーの後、自分にはもう時間がないことを悟る。そこへ追い打ちをかけるようにやって来た、想い続けた初恋の人の訃報。ジェップは自分の人生とは何だったのかを、ローマの景色や知り合いを通して知ろうとしていく…。ざっとあらすじを書くと、あっさりした話にも見えるが、実際はとても濃い内容になっている。

 まずはあの映像美について言及すべきだろう。『きっと ここが帰る場所』のときに感じた「独特の間」が今作ではその効果をより発揮しており、冒頭からパオロ・ソレンティーノ監督独自の世界を作り上げている。これには驚いた。もちろんシュールさはあるのだけれど、それがジェップの見る記憶や幻想の奇抜さ、非日常さを演出しており、作品のテーマをさらに深く掘り下げている。また現代のローマを美しく捉えた手腕も見事である。

 ただ、シュールさを入れ込むのを特徴とする監督が映像で物語を語ろうとした結果、ジェップやその他の人々の感情や状況を把握するのに、少し苦労する。また緩やかに美しい映像が続いていくので、少し冗長に感じてしまったのは残念。

 ジェップはいつも、同年代の人々といる。今や身も心もボロボロの元TVスター、売れない劇作家、女優から小説家に転身したばかりの女性、無口な詩人、精神を病んだ息子を持つ女性…皆ローマという大都市にいても、うまく人生を送れていないと感じている人ばかり。夜な夜な意味のない議論を交わし、最終的に「ローマは堕ちた」というネガティブな結論に至る。だが、ジェップがローマ中を旅している間に、彼らは少しずつ去っていく。若い頃に見た夢を諦め故郷に帰る者、人生を終える者…現実でそうした人々を見てジェップは言う、「私の人生は無だ」と。

 「何もない=無」状態を知るためには、そこに「ある(存在する)」状態でなければならない。つまり、無存在には存在が必要となる。今作のテーマとなっている生と死を抱えた人生も同様だ。死は生がなければ認識できない。死には、それまでの生の連なりが必要なのだ。

 ジェップも同様だ。ジェップは自分の人生は無だったと顧みる。だが無の人生には、ジェップの存在が必要なのだ。ジェップは現在と過去、記憶と幻想の旅を終え、無の中にある自分という「圧倒的な存在」に辿り着いたのではないだろうか。闇夜の欲望や狂乱の中で踊り疲れた魂が、ローマを巡り「ジェップ」という身体に返ってきたのだ。それがジェップの旅の、人生の答えだったのだと思う。

 そしてローマの景色。紀元前の栄枯盛衰を刻んだ建築物や彫刻、絵画で溢れたローマ。ジェップたちに衰退していると言われようとも、過去の衰退を残し「存在」するローマ。このローマの存在の美しさこそ、「グレート・ビューティー(大いなる美)」なのではないだろうか。ローマの「圧倒的な存在」、その美…それらに抱かれて、ジェップはこれからどんな小説を書くのだろうか。

 是非、全て観終わった後に冒頭の一節を読み返して欲しい。フランスの作家セリーヌの『夜の果ての旅』の一節だ。これを読めば、ジェップの旅をよく理解できるはずだ。また余裕がある方はフェリーニの『甘い生活』や『8 1/2』を観賞後、今作を鑑賞するとより楽しめるかもしれない。(それらの作品のオマージュが感じられるそうで。私もそうしたかったけど、諦めました(笑))この年のアカデミー賞外国語映画賞受賞が妥当だったかと言われると難しいが(私だったらこの年、良作が多くて決められません(笑))、映像の美しさと奥深いテーマは間違いなく素晴らしい。新しい魅力、才能に出会えた喜びで満足の一作。


 ちなみに次作は、マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、ジェーン・フォンダ出演でさらに「老い」に迫った内容になってそうな予感。そして原題の"Youth"(若さ)…どんな意味を持つのだろうか。早く観たい。