開明獣

グレート・ビューティー/追憶のローマの開明獣のレビュー・感想・評価

5.0
アカデミー賞外国作品賞受賞作。「グランド・フィナーレ」、「ハンド・オブ・ゴッド」の名匠、パオロ・ソレンティーノ監督作品。

ウィーンのような爛熟した退廃さとは違う。パリのような洗練されて近寄りがたい雰囲気とも違う。紀元前から歴史を見つめてきた都市ローマ。

イタリアの大聖堂などにあるステンドグラスや壁画は、その描かれた時代が生きたまま今も息づいているような感じがする。フランスでは、その時代が凍りついたまま現れているのとは対象的だ。

そのローマを舞台に蠱惑的に幻惑する映像美が心地よい。

冒頭は、フランスの小説家、故ルイ=フェルディナン・セリーヌの代表作、「夜の果てへの旅」からの引用から始まる。常に世の中を厳しい目で見ていた、この不遇の厭世的な作家は、人生を虚構の世界の旅になぞらえる。本作の主人公で作家であるジェップ・ガンバルデッラに重ね合わせているかのようだ。

長らく筆を折っているジェップの魂の彷徨を描いた本作は、衒学的なシニシズムに満ちていながらも、どこかノスタルジックでもある。

パオロ・ソレンティーノ監督の代表作と言ってもいい本作は、イタリアが誇る名優、トニ・セルヴィッロ抜きではあり得なかった。その名演技を心ゆくまで堪能することの出来る贅沢な逸品は、今まで観てきた数ある作品の中でも一際大きな輝きを放っている。

解釈や考察などはしたくもないし、する必要もない。ただひたすら、浴びるように滋味深き世界に身を浸せば、そこには喩えようもない多幸感が待っている。
開明獣

開明獣