ポルりん

サイレン FORBIDDEN SIRENのポルりんのレビュー・感想・評価

サイレン FORBIDDEN SIREN(2006年製作の映画)
1.5
原作への敬意が全く見えない作品。

あらすじ

1976年、ある島で全島民が突如消失する事件が起きる。
事件から29年後、その島に家族とともに引っ越してきた天本由貴(市川由衣)は、隣人(西田尚美)から“サイレンが鳴ったら外に出てはならない”との警告を受ける。

ある程度仕事が落ち着いてきたので、学生時代に皆でワイワイしながらゲーム「SIREN」を妻と一緒に再度プレイした。
プレイした当時は単純に難易度がかなり高い和風ホラーといった認識しかなかったが、改めて大人になってからプレイすると学生の頃とは違ったものが見えてくる。

まず、これまで私がプレイしたホラーゲームは見えない所から襲ってくる恐怖なのだが、「SIREN」の場合は敵(屍人)の位置や行動をわざとプレイヤーに見せる事によって恐怖を煽る演出をとっている。
これがかなり上手く機能しており、まるで殺人鬼一家の家や住処に自分が迷い込んでしまったかのような恐怖や絶望感を味わえるようになっている。
また、物語の舞台となる日本の田舎が上手く表現されており、悲壮感漂う建物やどこか懐かしい感じがする民家、薄暗い病院といったステージもかなりリアルに作り込まれている。

敵である屍人の行動もいい感じでプレイヤーに恐怖を煽るようになっている。
大体のホラーゲームの敵は配置された場所から、ランダムもしくは規則性のある無意味な行動をする場合が多い。
しかし、「SIREN」の場合は規則性があるものの、屍人になる前の行動を行うといった斬新なものとなっている。

子供の屍人は画用紙に絵を描いるし、主婦の屍人は台所で料理をしているし、その民家の主のような屍人は居間に座ってテレビを観たりと生前の日常的な行動を繰り返しているだけなのだが、やはりどこかしらは違う。
子供の屍人は画用紙に絵を描いているものの、声を高らかに笑いながらグチャグチャな円を描いてるだけだし、主婦の屍人は独り言をぶつぶつ言いながら何も置いていないまな板を包丁でひたすら叩いている。
そして民家の主のような屍人は砂嵐のテレビを見ながらゲラゲラと笑っている。
このように、生前の行動をリアルにさせつつもその中でも異常な行動をさせる事により、内側から責め立てられる様な恐怖をプレイヤーに与えるようになっている。
更にこのゲームは「視界ジャック」といった敵が視界に映っているものを画面に表示させる能力を使いプレイする事が前提となっているので、否が応でもステージをクリアするには不気味な行動を見なければならない。

プレイヤーのライフゲージが表示されず、地図も自分がどこにいるかがかなり分かりにくくなっている。
主人公側が非力なのに対し、屍人は異常に強くライフルを持たせたらシモ・ヘイヘ並みの狙撃能力で主人公に襲い掛かって来る。
このようにかなり難易度の高いゲームではあるが、それがプレイヤー側にも絶望感を与えゲームの主人公側と一部シンクロする事が出来る。
音楽もゲームの世界観とかなりマッチしているし、物語に関しても難解ではあるものの深いものがある。

10年ぶり位にプレイしたがかなり楽しむ事が出来たし、新たな発見もでき、個人的にはかなり満足のいくゲームであった。

この流れで「SIREN2」をベースとなっている本作を鑑賞した。
当時からかなりのクソ映画だと思ってはいたのだが、久しぶりに鑑賞したら悪い点ばかりが見えてしまい、余計に嫌いな作品となってしまった。

まず物語の冒頭、1590年アメリカのロアノーク島で島民全員が失踪する事件についての説明があるのだが、この演出はどう考えても「TRICK 」で使われるものと同じである。
堤幸彦監督の他の作品ならギリギリありなのかもしれないが、「SIREN」でこの演出は全くといっていいほど合っていない。
何というか、「東海道四谷怪談」の冒頭でで「スターウォーズ」のOPのような演出をしている感じだ。
しかも、「TRICK 」の場合は冒頭の伏線を回収するものの、本作の場合は伏線を回収しないまま終わってしまう。
一体何のために「TRICK 」の演出を用いたのだろうか・・・。

「TRICK 」の演出後、どしゃ降りの中で捜索隊が島民を探すシーンに切り替わるのだが、捜索隊の演技が余りにも臭すぎる。
真剣に探しているように見えないし、まるで陳腐なコントを見ているようだ・・・。
しかも、土砂降りの中捜索しているので全身びしょびしょになっているのだが、捜索隊が家の中に入ると服が一瞬の内に乾いている。
ディテールも甘いし、制作陣は悪天候にして薄暗くすればそれで怖くなると勘違いしているんじゃないか・・・。

この後、捜索隊が生き残った島民を発見するのだが、その島民を演じているのがあろうことか阿部寛である。
いやいや、これは完全におかしいだろ!!
これが普通に登場するのなら全然構わないのだが、「TRICK 」の演出の数分後に阿部寛が登場したら、「TRICK 」の上田次郎と勘違いしてしまうだろうが!!
キャラクターも何となく狂った時の上田次郎みたいだし、和風ホラーからコメディー要素が濃いミステリードラマと印象が変わってしまう・・・。
「SIREN」を映画化するにそのように思わせるのはマズイんじゃないか・・・。

この冒頭の茶番が終わると、島民が消失した29年後を舞台に物語が始まるのだが、どうにも日常パートが長すぎる。
ゲームでは開始から3分くらいで屍人が襲ってくるのだが、本作の場合は物語の終盤になってようやく登場する。
その間の日常パートといえば、屍人のいない安全な島を主人公が徘徊するだけのものだ。
ゲームにあった緊張感や絶望感など微塵も存在せず、ただただつまらない描写が続く。

果たして「SIREN」を映画化するに辺り、視聴者に日常パートを長々と見せる事は正解なのだろうか・・・。
恐らく主人公のバックボーンをしっかりと描き、主人公が認知している島民が屍人になる事で恐怖感を煽りたいのだろう。

しかし、長々と日常パートを見せている割に、主人公は似たような行動しかせず全くといっていい程に魅力を感じないし、元々不気味だった島民が屍人になったからといっても全然生前とのギャップを感じないので全然怖くない。
もう糞なOPなどを全てカットして開始から5分程で屍人が襲ってくるような展開にした方が良かったのではないだろうか・・・。

日常パートも退屈でつまらないものであったが、屍人が出現してからは更に酷いものだ。

まず、屍人だが生前の行動を繰り返す訳でもなく、不気味でリアリティのある行動もしない。ただ単純にゆっくりと主人公を襲うだけの存在だ。

この作品の製作陣は屍人をどう理解しているのかは分からないが、私が観る限りでは質の悪いゾンビにしか思えなかった。
しかも、キャストにココリコ田中や森本レオを起用している為に、本来は恐怖感を煽るシーンなのだろうが完全にギャグシーンになっている。

また、主人公が「視界ジャック」を使える訳でもないので、ゲームの醍醐味であった見える恐怖というのも全然味わう事が出来ない。

「SIREN」の絶望感が漂う世界観も全く表現されていないし、物語のキーとなるサイレンも陳腐な設定になってるし、オチも3流小説にありそうなものを採用している。
幾らなんでもあのオチは強引過ぎだし、余りにも都合が良すぎる。
そして何より「SIREN」の世界観に合っていない。

恐らく、堤監督はゲーム内のサイレンは誰の泣き声かという事や屍人の正体も知らないで製作したのだろう・・・。

てか、誰がマンションの4階以上の高さから落ちてかすり傷だけで済んで納得すんだよ!!

恐らくは少年時代の刃牙がガイアがいる戦場に行く際に使った五接地転回法を使ったのだろう。
しかし、それはゴリラよりも遥かに強い夜叉猿を素手で倒した刃牙だからこそ出来る訳であり、尻に蹴りをいれただけで悶え苦しむ田中に恐れをなして逃げ惑う市川由衣ではとてもじゃないが五接地転回法は無理だ。

ゲームに似せた建物とか小道具はある程度評価出来るが、「SIREN」の芯となる部分が滅茶苦茶な為にどうしても酷評依りになってしまう。

これが実相寺昭雄や黒沢清が撮っていたら世間にここまで酷評される事はなかっただろうし、何だったら好評だったのかもしれない。
特に黒沢清は「SIREN」と芸風が合っているのでかなり可能性があったと思う。

最近はゲームや漫画の実写化が異常なほど製作されている。
安全に金を稼ぐ為など様々な理由から製作されるのだが、その理由の一つに映画を鑑賞した人に原作や元となったゲームの購買意欲を高めるといったものもある。
質の高い作品ならそうなるだろう。
現に最近「帝一の國」を原作未読の状態で鑑賞したが、普通に面白かったので、ついつい原作を購入してしまった。

しかし、本作の場合はどうだろうか・・・。
緊張感や絶望感のない退屈な島の探索、質の悪いゾンビ、糞みたいなオチ。
こんなクソのオンパレードでどうやって購買意欲が沸いてくるんだ!!
沸いてくるのは田中にタイキックをしたいという欲求くらいのもんだ!!

これならゲーム「SIREN」のキャラクター、設定、ストーリーを極力変えずに映像化した方が良かったんじゃないか。
いや、寧ろ大体の人はそれを望んでいたと思うのだが・・・。
ポルりん

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