えびちゃん

カラスの飼育のえびちゃんのレビュー・感想・評価

カラスの飼育(1975年製作の映画)
4.0
"信頼できない語り手"ものってなんでこんな面白いんだろうね、小説にしろ映画にしろ。その語り手は例えば精神疾患であったり、都合の悪いことを隠す狡い人間であったりさまざまだけど、本作の語り手は"子ども"であること、と"妄想“の世界に生きていることとが入り混じっている。早々にその危うい語りが明かされているのに、鑑賞中はずっと錯乱させられっぱなしで久しぶりにこういう文学的に練られた作品を堪能した。
母をすでに亡くし、父の腹上死をきっかけに三姉妹と養育者の伯母、歩けず口も聞けない祖母、家政婦と暮らしていく中で芽生えるささやかな殺意。神のように生殺与奪の権があると思い込むアナ・トレントちゃん。無邪気と残酷はつねに隣り合っている。悪意なんてない。あるのはただ無垢な心。だからこそ恐ろしい。
場面が変われども反復する母と子のやり取り、亡き母の姿で娘が過去を語るという演出に心がっつり持っていかれた。
アナ・トレントちゃんが主演なのでどうしても『ミツバチのささやき』を思い浮かべてしまうけど、もちろんまったく別物。でもどちらもちゃんと傑作なので安心してどうぞ。
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