カッチェ

わたしは生きていけるのカッチェのレビュー・感想・評価

わたしは生きていける(2013年製作の映画)
3.5
感想①「想像すると恐ろしい」
同名ベストセラー小説を映画化した、思春期を迎え悩み多き16歳少女の心情の変化と、核爆発により第3次世界大戦が勃発し混乱するイギリスの様子を描くパニック青春ドラマ。

自分がこの世に生を受けたと同時に母親を失い、そのことが原因で父親との距離感が掴めないまま思春期を迎えたデイジー(シアーシャ・ローナン)。16歳となった彼女は、ひと夏を叔母の元で過ごすため単身でニューヨークからイギリスへとやって来る。
反抗期丸出しでパンクな服装やメイクをし、常にヘッドフォンで音楽を聴き自分の世界にだけ閉じこもる彼女だったが、イギリスの田舎で育った3人の純朴ないとこたちと接する内に徐々に心境が変化し、やがて長男であるエディに惹かれはじめる。

しかしのどかに過ごしていた平和な日々は突如として終わる。ロンドンで核爆発テロが起きその関連の仕事で叔母が家を離れることになり、子供たちだけで不安な毎日を過ごすことになるが、状況は刻々と悪化し第3次世界大戦が勃発。戒厳令が敷かれ、デイジーたちは軍により男女別々に収容され離れ離れになってしまうが…。

ある日、急に戦争が起こったら…外国で戦争に巻き込まれたら…戦争映画としてはフィクションですので、現実味はない作品かもしれませんが、観ていて色々と怖かったですね。

感想②「実は思春期を描いた青春映画」
第3次世界大戦が舞台となっていますが、戦争映画特有の派手な演出はありません。この映画が重点的に描いてるのは、デイジーの心境の変化を丁寧かつ繊細に綴ること。

彼女の生い立ちや育った環境はとてもシビアで、この映画を見て自分も同じだったとすぐに共感できる方はほぼ居ないと思います。でも何かと不安定な思春期の頃に、世界にひとりぼっちで取り残されてしまったような気持ちになったり、周りの人は誰も自分の気持ちを理解してくれないと嘆いたり、大人になった自分の姿がどうやっても想像できなかったり、誰しもそういう経験があると思います。

そしてこの映画は異国の地で第3次世界大戦に巻き込まれしまった少女が主人公なので、その特殊な設定に共感することも中々難しいです。ですが先程も述べたように、この映画はデイジーの心境変化を描いた作品。戦争描写はもちろんありますし、かなりシビアな展開になっていて目を覆いたくなるシーンもあります。主人公やいとこの3兄弟が少年少女なので、子供が戦争に巻き込まれるという心情的にかなり居た堪れなくなる部分もあります。

ただデイジーの心境変化については、とてもリアルなので結構共感できる方は多いと思います。彼女にとって変化のきっかけになったのは、戦争ではなくいとこ達。今まで自分の人生で接したことのない純朴な人々、そして初めて心惹かれるエディと出会ったこと。すべてに否定的で、自分がこの世に生まれたことで周りを不幸にさせてしまうと思っていた少女が、少しずつ生きる楽しさを知り、たった一つエディと約束した「どこへ行っても必ずここへ戻れ」という言葉を心の支えにする。

感想③「16歳だけどまだ大人じゃない」
よくある殻に閉じこもってた少女が恋愛することにより、明るく爽やかで心の優しい少女へと変化する…そういったリアルにかける急激な変化はありません。彼女は自分がただ前へ前へと進めるように必死に生きますが、大人になったわけではなくまだ思春期の少女のまま。

一緒に連行されたエディの妹であるパイパーを表面上は気遣いますが、余裕がないので甘やかすこともできないし、不安がり我儘を言うハイパーを笑顔で優しく受け止めてあげることもできず、突き放すような言動もしばしばあったりして、10代の心情変化を丁寧に描いてるなぁーっと感心しました。大人になってしまった私はデイジーの行動を何度か年上なのに大人げないと思いましたが、そういえば彼女は大人じゃなくてまだ少女のままだったんですね。どうしても視聴してる間に、10代の少女目線から外れてしまうんです。

でもこの映画を10代の思春期の頃に見れてたら、もっと共感できる部分があったり、ああこういう少しのきっかけや考え方で強くなれるんだと光を見出せたかもしれません。そういった意味でこの映画は10代のうちに一度触れて、そして大人になってからまた視聴してみると、一つ一つのシーンの受け取り方の違いを楽しめたりするんだろうなぁーっと思いました。
カッチェ

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