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誘拐の掟のしゃにむのレビュー・感想・評価

誘拐の掟(2014年製作の映画)
4.2
「愉快な誘拐犯がいるもんかね」

↓あらすじ
強盗犯を撃ち殺し民間人の少女も巻き添えに死なせてしまった元刑事の私立探偵がアルコール依存症から立ち直る会のメンバーから誘拐事件の依頼が舞い込む。依頼人は麻薬の売人で奥さんが何者かに誘拐された。探偵は類似の事件を調べ、バラバラに殺害された女子大生のアルバイト先に聞き込み調査。女子大生の元上司の挙動を怪しみ、追跡調査をするとビンゴ、誘拐犯の1人だった。他の誘拐犯の名前を告げると男は投身自殺してしまい…

・概要
リーアム親父の激渋エキスたっぷり正統派ハードボイルド探偵モノである。探偵小説を読んでいるかのような濃厚ムードに見入ってしまった。原作(未読)があり探偵小説らしいのだが見事な再現度である。人の面を被ったケダモノ共が何処かに潜伏する寂れた都会に漂う不気味で皮膚がピクピク痙攣する感覚はセブンのようである。刑事時代に犯した罪を罪人(麻痺売人)達の最愛の人達を救うことで償う構図に黒い感動を覚えた。幸なのか不幸なのか還暦超えてから「無敵親父」のイメージが定着し、老体に鞭打つ無茶な役が増えたリーアム親父の(変な言い方だが)演者としての本領・真価が堪能出来る作品である。無敵親父を期待して観ると地味で期待外れ間違い無しだが、落ち着いた上質サスペンス作品を所望する方には是非とも推挙したい。

・猿でもわかる誘拐の掟
娘を誘拐する予定ならまず親父を下調べしなければならない。これが肝心である。リストに該当した場合、下手したら地の果てまで追いかけ回されること間違いなしである。
<要注意親父リスト>
アーノルド・シュワルツェネッガー、ジルベスター・スタローン、ブルース・ウィリス、スティーブン・セガール、チャック・ノリス、ジェイソン・ステイサム、リーアム・ニーソン、空条承太郎…etc
これらを排除して誘拐すれば上手くいくがリストに記載された親父から娘を誘拐するのが悪役の性であり涙を誘うところである。

・還暦探偵
題名からするとリーアム親父の娘が(無知な)誘拐犯に拉致されてリミッター解除してリーアム親父が心置き無く暴れ回る映画かと誤解される(現に自分もその口である)かもしれないので断っておくと全然違う。奥さんを誘拐された旦那から依頼されて誘拐犯を追う渋いオヤジ探偵という役柄なので当然娘LOVEパワーで無敵化することはない。無敵化しない一般人設定ながら、今作はリーアム親父でなければ多分上手くいかなかったのではないだろうか。無敵化する作品でも思ったが、リーアム親父の瞳は見る人に父親の後ろ姿を連想させる、何やら目元に哀愁がある。今作の誘拐犯は旦那から身代金をせしめた挙句、奥さんのバラバラ死体を送りつける同じ人間とは思えないサイコ野郎である。ニュース等で猟奇殺人などを目にしてこんな奴が同じ世界に住んでいる事実に目眩がした経験がある。今作でも同じように狂者がいる。家の中を調べなければまともな人間としか映らない。怖い世の中である。そこにリーアム親父がいると何かしら安心するものがある。刑事時代に流れ弾で少女を死なせる、罪の意識からアルコール依存症、無許可の私立探偵…只々ため息しか出ないこんなクソみたいな世の中でクソ野郎供を寡黙に追い詰める憂目の還暦探偵…これはリーアム親父にしか演じることの出来ないキャラクターではないか。ターゲットは麻薬の売人リストから選ぶから旦那は警察に相談も出来ないことをいいことに拉致した嫁さんを犯す音声がたっぷり詰まったカセットテープを大量に送りつけて、身代金だけせしめて無残なバラバラ死体を池に浮かべ、少女の指を切り落としてから解放する、外道のツボを心得ている。ハリーキャラハンなら躊躇わずに撃ち殺しているド外道である。パソコンなんて使えない、携帯電話は不必要、捜査は足、古風過ぎで時代錯誤だが、このこだわりは嫌いではない。誘拐犯に対し電話で「殺してみろ、お前を絶対に殺してやる」と言い放つシーンは鳥肌ものである。96時間はリーアム親父の親父アイドル映画であるがこちらも別の意味での親父アイドル映画である。
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