うえびん

ゼロの未来のうえびんのレビュー・感想・評価

ゼロの未来(2013年製作の映画)
3.4
ワレワレハナニモノカ?

2013年 アメリカ作品

時代は、コンピューターに支配された近未来
どこか古さも感じられる未来の世界
懐かしく新しくも感じる

主人公は天才プログラマーのコーエン
荒廃した教会に一人でこもっている
人生の意味合いを決めるという謎めいた数式
「ゼロ」の解明に挑んでいる
すべてが制御された世界
監視社会の中で

主語が「ワレワレ(我々)」なのはなぜ?
ワレワレハ家で電話を待つ
ワレワレハパーティーが嫌い
ワレワレハ味の濃いものは食べない
ワレワレハ触られたくない…

一人孤独なコーエンの姿は
そのように見えるだけか?

我々の使命と存在の意義が
他者との対話を通じて浮かび上がってくる

ある日、パーティーで出会ったベインズリー
次第に彼女に惹かれていくコーエン

「ゼロ」の秘密を知る青年ボブ
徐々に友情を感じるようになるコーエン

孤独に生きてきた男は
人々とのふれあいを通じて
愛情や友情を湧かせ始める
本当の幸せに気づき始める

「ワレワレ(我々)」は「ワタシ(私)」となる

ディストピアでもなくユートピアでもない
独特な世界観は現代社会の風刺画か?
そこで暮らすコーエンは現代人の戯画か?

コーエンが探し求めたユートピア
べインズリーとの夢の中にもそれはなく
ボブとの定理の解明の中にもそれはなく
すべてを制御する巨大コンピュータに挑んだ結果は…

脳の神経ネットワーク上を行き交う神経細胞
ワレワレハ神経細胞か?
神経ネットワークが途切れると行き場を失い
中空を漂うだけの存在になってしまうのだろうか
砂粒と化した人間は
名前も他者とつながる必要も無くなるのだろうか

解剖学者の養老孟司さんの言葉「脳化社会」
都市化は自然を排除するということ
脳で考えたものを具体的に形にしたものが都市
自然はその反対側に位置するもの

人間の脳が生み出した巨大コンピュータ
人間の脳に支配される人間
排除される自然(≒愛、自由、希望、夢)
そこにユートピアが生まれるわけはない

ゼロ(無)に行き着いた先の世界はカオスとなる?
そして再び(有)が生まれる?

この思考自体も人間の脳の特性に拠るもの
危険性を孕んでいるような気がする
うえびん

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