ラウぺ

ゼロの未来のラウぺのレビュー・感想・評価

ゼロの未来(2013年製作の映画)
3.0
テリー・ギリアムにクリストフ・ヴァルツ。
コンピュータに支配された近未来の社会で謎の定理の解読に挑む男・・・
こんなシチュエーションなら期待しない方が難しい「ゼロの未来」

徹底した管理社会、主人公に変化をもたらす女性の登場、謎を追ううちに現実とバーチャルの境界があいまいになってくる筋書き・・・見る前からおおよその察しがつくようにこの作品は明らかに「未来世紀ブラジル」のセルフパロディとでもいうべき作品です。

しかし、過大な期待はしない方がよいと言わざるを得ません。
キッチュで騒々しい未来世界の様子や火事に遭った修道院を買い取ったという主人公の家など、いかにもギリアムっぽい世界観が描かれてはいるものの、低予算なのか、バリエーションに乏しいのと、どこかで見た既視感あるものが多くて新鮮味に乏しい気がします。

登場する場面がほぼ主人公の家の中で、多くが会話劇であるため、ストーリー運びがやや重く感じられることと、クリストフ・ヴァルツはまさに怪演とでもいうべき存在感でしたが、主人公に「ゼロの定理」を解かせる会社(=マネージメント)の意図が次第に明らかになってきて、主人公に変化が現れてからの描き方は観客に物語を見せようという作劇の仕方を放り出してしまって、監督の描きたい映像のみを繋いでラストになだれ込む辺りは好みの分かれるところかと思います。
ストーリーのあるラストでは既に「未来世紀ブラジル」でやってしまったし、難解と言われようと抽象化して感覚で理解して欲しいということかもしれませんが、私にはそれが成功しているとはちょっと感じられませんでした。
なんとも言い難い小粒感だけが印象に残りました。

いろいろな意味で「未来世紀ブラジル」は真のマスターピースと呼ぶに相応しい特別な映画で、当のテリー・ギリアム自身でもこれを超すことは難しいのは確かかもしれませんが、新しい切り口や、円熟の巨匠感といったものを出しきれずじまいで、なんとも消化不良感の残る作品でありました。
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