あーさん

6才のボクが、大人になるまで。のあーさんのレビュー・感想・評価

4.2
ビフォアシリーズ3部作ですっかりリチャード・リンクレイター監督にハマってしまい、今や私のバイブルとなっている。
今作は少し尺が長いので後回しにしていたが、やっと鑑賞。。

こちらも同じキャストで12年間、一つの作品を作り上げるという試み。
邦題がマッチしていて、6歳のメイソンという男の子が18歳になるまでの成長とその家族の歴史を描いている。
特にドラマティックな展開もないドキュメンタリーのような今作、好き嫌いはあるかもしれないが私にとってはとてもタイムリーで、忘れられない作品になった。。

(以下、少々ネタバレあるかもしれないので注意…)



キャストが間違いない。
最初の夫、子ども達の父親役のイーサン・ホークはやっぱり良いなぁ。。夫としては失格でも子どもみたいなお父さんぶりが、何とも魅力的!
離婚後の面会日に3人でボーリングをするシーンは好きだな〜
別れてからもずっと子ども達のことを気にかけて、新しい家族ができても家族ぐるみの交流があるのはさすが。日本ではあまり実感が湧かないけれどアメリカでは珍しくない光景なのかもしれない。
パトリシア・アークエットもできる女性にありがちな、男性を見る目は甘いがキャリアを諦めない母親オリヴィアをしっかり演じている(本編には関係ないが、彼女の年齢による体型の変化が顕著で身につまされる…)。
あどけないメイソン(エラー・コルトレーン)が多感な思春期を抜けて大学生になるまで…長いようであっという間。
彼は少し内向的だが素敵な感性を持っていて、やがてそれを生かした分野でチャンスを掴んでいくのだが、自分を持て余してうまくいかない恋愛模様は思春期あるある。ナイーブさを内包したメイソンの成長に、つい息子を重ねてしまう自分がいた。。
メイソンの姉サマンサ役のローレライ・リンクレイターは監督の実の娘。タレ目が特徴の、小さい時からおしゃまでしっかり者。成績優秀で動じないのは母親譲りかな。
大人っぽい歌を弟にしつこく歌って踊って聴かせた挙句、母親に怒られたら噓泣きするなど、姉弟あるあるのエピソードが好き。
この子ども達だったから、あり得た物語。奇跡のような、長い長い時間をかけて撮ったパーソナルな作品。。
途中で子ども達のどちらかか反抗したりしてやめると言わなくて良かった笑

スター・ウォーズ、ハリー・ポッター、スケルトンモデルのiMac…
その時々の時代を反映させた物が
ストーリーに絡まってくるのが懐かしい。

一番印象的だったのは、メイソンが高校を卒業していよいよ家を離れるという日、明るく見送るつもりだった母オリヴィアが急に泣き出すシーン。
これは他人事じゃないなぁ。。
気持ちが痛いほどわかる。
そう、できれば「じゃあね!あーやっと出て行ってくれてせいせいしたわ!」なんて言いたいと思っていても、、
曲がりなりにも一生懸命育てて来た末の息子が出て行くのだ。
普通でいられるわけはない。
子どもには絶対わからないだろうけど。。

オリヴィアが大きくなったメイソンに食べた後の洗い物を促すシーンも好きだ。こうやって少しずつ母は子どもが外に出て行けるようにしつけ、自立できるよう準備をするのだ。
”私はもうあなた達のお世話をするためにいるのではないのよ”と。

両親の離婚、再婚、その度に転校、、
メイソンもサマンサも生き方が不器用な親に翻弄されて、辛い思いもする。
結局オリヴィアは3人の夫と暮らしたことになるが、その都度問題が起こり、一緒に暮らせなくなる。
2番目の夫は大学教授というインテリ…のはずが支配的で酒乱、最悪だった。着の身着のまま逃げ出しても、落ち着くとオリヴィアは懲りずにまたパートナーを見つけるのだ。。
私はそこに母親のしたたかさを感じた。住む家がある、養ってくれるパートナーがいるということは、やはり子持ちシングルマザーにとっては有り難いこと。彼女は決して恋多き女などではなく、子ども達を育てるため、自分が勉強を続けるための手段として、女を武器にしていたのではないか、と思う。
グザヴィエ・ドランの「マミー」にも似たようなシチュエーションが出てきたが、シングルマザーの置かれている大変さを目の当たりにする。
生きる為に必死の母…
子ども達はそんな母の思いを知ってか知らずか、文句を言いつつ、母の生き方を決して否定はしない。
オリヴィアも離婚や再婚に関して子ども達に一切言い訳をしたり、謝ったりしない。ただ懸命に今を生きる姿を見せるだけ。
必死に環境に順応しようとする子ども達、
掴まれるものには何でも掴まる母親。
褒められた生き方ではなくても、
その時出来る最善のことをやって
間違ったら修正してまたやり直す、その繰り返し…それが人生。
そんなシンプルなことに気づかせてくれる今作を私はとてもとても愛おしく思う。
心の葛藤をあからさまに前面に出さず、絶望の中にあっても希望を見出しひたむきに生きる家族のそのままを描く…人生に対する監督の優しい眼差しを感じる。

私は離婚経験はないけれど、オリヴィアと自分の人生と重ね、母親として共感できる部分がいくつもあった。

”子育てを終えた私に何が残ってる?自分の葬式だけよ。” というセリフに役割を終えた母親の寂寥感が滲んで見えた。

でも、決してキャリアを積むことをやめなかったオリヴィアにはまだ本を書くという夢が残っている。
子育てだけに埋没しないで、大学で勉強して教えるという自分の夢もきちんと叶えてきた彼女には、明るい未来があると思う。

私には何ができるのかな。。
少しずつ子離れの準備、していかなくては。
何をしたらいい?でなく何が待ってるのかな?って考えるとちょっとワクワク。自分の為に時間もお金もエネルギーも使えるって独身時代に戻ったみたい。
あ、夫はいるけど笑

きっと、子離れの場面ではうわーんってドン引きされるほど泣くだろうけど、その後はケロッとして好き勝手してるものなのかも。
想像していると色々楽しくなってきた。。
あと何年後かな。


ラストはメイソンが自分らしさに気づいて、そこから未来が拓けていくことを思わせる終わり方。

さぁ、人生はこれからだ!!
あーさん

あーさん