垂直落下式サミング

牙狼之介の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

牙狼之介(1966年製作の映画)
4.0
牙狼之介(きば おおかみのすけ)というキラキラネームの浪人が活躍する剣劇アクション。夏八木勲の初主演作でもある。
単に雇い主に本当の名を名乗らないという『椿三十郎』オマージュかとも思うが、だとしたらこのネーミングセンスはちょっとイタい。彼は俺は牙をむき出した狼なんだぜと得意げに言うが、宮園純子演じる盲目の女主人からは「髭の多い狼ですこと」と上品にいなされてしまうし、初主演の辿々しさも合間って「牙様、お背中をお流ししましょうか」から発展していくやり取りもなかなか童貞臭いのだ。
主人公がさびれた宿場町に足を踏み入れる冒頭の場面は、かなり露骨に黒沢明の『用心棒』を踏襲していて、話がスピーディに進んでいきマカロニウエスタンのような血みどろの戦いが展開する。
当たり前のように殺陣ができる役者がいて、作り手にもアクションを撮るノウハウがあった時代に撮られた映画には、特に工夫のない撮り方をされた剣劇にさえ迫力があり、何の違和感もなく楽しむことができる。「様になる」とはまさにこの事。
狼之介が顎髭の手入れをしながら彼女と話す場面とか凝っていて好き。小道具による反射を利用して、ワンカットのなかに二つの情報がおさまってる場面が好きなようだ。