らいち

パディントンのらいちのレビュー・感想・評価

パディントン(2014年製作の映画)
5.0
日本での公開を首を長くして待っていた「パディントン」。
もうこの映画を愛さずにはいられない(笑)。頭の先から尾っぽまで、餡子がギッシリ詰まった鯛焼き映画。「萌え」に依存しない脚本が素晴らしい。ベン・ウィショーの暖い声がパディントンにぴったりだ。観終わった後の多幸感に思わず拍手(脳内で)。

ペルーから家探しのためにロンドンにやってきた子熊と、彼を自宅に居候させたブラウン一家の交流を描く。

有名絵本の実写による映画化だ。登場する熊のビジュアルは、架空のキャラとして可愛くアレンジされたものではなく、実際のリアルな熊の造形に近い。愛情深く、人間と同じ感情をもち、知能と学習能力に長けた「変種」の熊として描かれる。しかし、映画はあくまでファンタジーだ。雑食であるはずの熊がマーマレードだけで食いつないだり、熊が人間社会の人混みの中にいても誰も騒ぎ立てることはしない。絵本を実写化したのではなく、実写によって絵本の世界を表現しているようだ。

リアルな世界とファンタジーな世界の組み合わせ。一見違和感のあるハイブリットな世界に入り込むのは容易だった。その理由は2つある。登場キャラがもれなく魅力的であったことと、徹底的な映像の作り込みに引き込まれたからだ。

子熊はペルーの奥地で老齢の叔父と叔母の3人で平穏に暮らしていた。人間と縁深かった叔父と叔母から、人間の言葉と人間社会について、そしてマーマレードの美味しさを教えてもらっている。ある日、大地震が起きて住まいが潰されてしまう。生き残った叔母から今後の進路について提案される。かつて交流のあった人間の探検家が住むロンドンを訪ねてはみてはどうかと。子熊は貨物船に隠れて乗りこみ、何とかロンドンに辿り着く。ロンドンの都会のド真ん中で、教えてもらったロンドン流の挨拶やマナーを使って人間との接触を試るも、一向に誰も相手にしてくれない。「ロンドンの人たちは親切」と聞いていたのだけれど。。。見ず知らずの環境で疎外感に襲われる感覚は、誰しも身に覚えのあることではないか。この時点で子熊を1人の人格として見つめている。

駅のホームでひとり途方に暮れるなか、4人家族で連れ立っていた一家の夫人に声をかけられる。「泊まる場所はあるの?」。夫人は自分の帽子と同じ真っ赤な色のコートを着ていた。その瞬間、冷えた心にポッと火が灯る。一家のお父さんは「ほっておけ」というが、奥さんのブラウン夫人は見過ごせなかった。そして、熊語(笑)ではなく、人間の言葉で伝わる名前を子熊につける。その名が「パディントン」だ。その後、一家の厚意によってパディントンは居候することになるが、故郷にいた頃より「台風ぼうや」と言われていた持ち前のトラブルメーカーぶりを存分に発揮する。そのトラブルのスケールがなかなか凄い。

パディントンはいたって真面目だ。そして純粋。悪気はないのに自分の望まぬところで、招かれざる騒動を引き起こしてしまう。それが本作のユーモアの源泉であるが、可愛さやギャップ狙いなどのありがちな観客への媚びに頼らず、お構いなしのコメディに振り切っているのが良い。実際に素直に笑えるのは半分くらいで、残りの半分はイタかったり気持ち悪かったりと、感情の行き場に困るシーンも多い。それらをひっくるめてパディントンの魅力と感じる。彼のトラブルを受け止めるブラウン一家の面々も個性的で面白い。一家のお父さんはなぜかリスク分析家(笑)だったり、長男の男の子はプチ発明家だったり、同居するお婆ちゃんは掃除に情熱的だったりと、パディントンとの化学反応を見越してキャラクター設定をしているのがわかる。

そして、本作の最高のスパイスになっているのが、パディントンを追いかけまわす「剥製担当部長」(って名前w)のミリセントの存在だ。異常なまでに動物を剥製にすることに執着している。彼女の毒っ気とシュールなチャームがこれまた異質なユーモアとなって響く。響くどころじゃなかった、爆笑だった。。。演じる二コール・キッドマンもノリノリだ。楽しんでサイコパスを演じているようだ。

そんなミリセントとパディントン、そしてブラウン一家が対峙するラストの大団円も最高だ。ブラウン一家がそれぞれの特技を駆使してパディントン救出に挑み、パディントンはトム・クルーズのMIBばりのアクションを披露する。どこまでも抜け目のない遊び心にニヤニヤが止まらない。そしてハラハラドキドキのクライマックス。あるシーンで自分含め、会場から悲鳴が上がった(笑)。これまで気になっていた伏線が見事に結実し、その後はまさかのオチが待ち受ける。こちらの想像を凌駕する展開と隙のない演出。絶好調時のピクサーアニメにも通じる完成度ですっかり興奮してしまった。

全編を通じて目を見張るのは徹底した映像の作りこみだ。絵本の世界を実写で再現するために、画面の隅々までディテールが施されている。衣装、美術、小道具がもれなくツボに入る。赤、黄、緑などの原色を多用したレトロでポップなデザインが堪らない。クラシカルでありながら先進的なロンドンの街並みにもすっかり馴染んでしまう。観客を驚かせ楽しませる映像作りに終始しており、「そこのショットで行き止まり」と思わせながら、もう一歩踏み込んだような映像も盛り沢山。それらが単なるお飾りに終わらず、物語の流れを暗喩するツールになっていることも見逃せない。

そして、観る者を大いに楽しませながらも、浮上するメッセージは鮮明で嫌味がない。異なる価値観をもった他者との共存や、帰るべき居場所の在り処だったり、本作を見て感じ取られるテーマは大きい。パディントンを世話したはずのブラウン一家がパディントンによってその絆を強固にするのが感動的だ。
鑑賞後、たまたま自宅で見たシリア難民の最新ニュースを見て身につまされた。この映画と世界で起きる国際問題を繋げるのは、かなり強引な解釈であるけれど、それだけ普遍的なテーマを描いていると思うのだ。

小さい子供も安心して見られるというファミリー映画の一定基準をクリアしながらも、大人も存分に楽しめる余地を残した素晴らしい映画。動物キャラを主人公に据えた映画としては「ベイブ」以来の傑作といえる。脚本・監督のポール・キングはTV界で活躍している人で映画の実績はまだないようだけれど、相当デキる映像作家のようだ。

叔父と叔母からもらった赤い帽子に、一家のお父さんのお下がりである紺のダッフルコートは抜群のコーディネートだ。 パディントンがマーマレードの香りを嗅ぐときの、気持ち良さ気な顔を見ていると、小さな幸せがこっちにも伝染する。

【80点】