Mikiyoshi1986

狂乱の大地のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

狂乱の大地(1967年製作の映画)
3.9
3月14日は43歳で早世したシネマ・ノーヴォの牽引者グラウベル・ローシャ監督の生誕79周年に当たります。

発展途上にあったブラジルの映画界において、フランスのヌーヴェルヴァーグと同様に"シネマ・ノーヴォ"という新たなムーヴメントを巻き起こし、革新的な作品で世界の映画シーンに一石を投じたローシャ監督。
ゴダールをして「もっとも新しい映画監督の一人」と言わしめ、
今からちょうど半世紀前の1967年に公開された本作はカンヌ国際映画祭にてルイス・ブニュエル賞、国際映画批評家連盟賞などを受賞し、その名声と"シネマ・ノーヴォ"の確固たる地位を築き上げました。

本作はブラジルのフォークロア的下地を基に形成された現代政治寓話ですが、舞台は架空都市エル・ドラド。
エル・ドラドといえば16世紀にスペイン人が挙って追い求めた伝説の黄金郷であり、
この裏側にあからさまなブラジル政界批判を盛り込んだ作風は、当時の軍事政権下の厳しい検閲を免れる意図が挙げられます。

詩人でジャーナリストであるパウロは野心的に変革を求め、聖職政治家ディアスや民衆のリーダーである地方議員ヴィエイラ、資本家フエンテスの元へ次々に仕えるものの、
闘争の火種は失意のもとに潰え、その挫折を時に荒々しく、時に繊細なタッチで描き出します。

理想と現実の狭間で苦悶し、どれだけ権力者の助力で抑圧された人々の自由と解放を扇動しようとも、結果支払われる犠牲は決まって搾取される側の弱者であること。
虚飾と怠惰にまみれた上層社会の内部をアヴァンギャルドな手法で暴き出し、
回想から夢想、イデオロギーに至るまで、交錯する映像は鮮烈なまでに混沌とした狂乱の心象を構成していきます。
それはまるでローシャ監督の根幹的「怒り」に直結するかのよう。

土着音楽をメインとする宗教儀式の歌と打ち鳴らされる太鼓のリズム、そして激しい銃声音は、終演後も暫し鳴り止む気配がありません。
Mikiyoshi1986

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