Jeffrey

狂乱の大地のJeffreyのレビュー・感想・評価

狂乱の大地(1967年製作の映画)
4.0
「狂乱の大地」

冒頭、モノクロームに映る大海原の空中撮影。民謡音楽が流れ、ここは大西洋岸内陸エルドラド。アナーキズム、権力と闘争、集団と支配、反動的理論。今、架空の共和国で抑圧される人々が写される…本作は1967年にグラウベル・ローシャがカンヌ国際映画祭ルイス・ブニュエル賞と国際映画批評家連盟賞、ロカルノ映画祭グランプリなどを受賞した彼の傑作の1本で、 架空の共和国エル・ドラドを舞台に幻想を交錯させながら展開する壮大な寓話である。この度、DVDボックスを購入して初見したが素晴らしい。


さて、物語は理想に燃えるジャーナリストかつ詩人の男パウロは保守政治家事ジアズに興味を持たれていたが、地方へ行き出逢った活動家のサラと意気投合して、民衆に人気の進歩派議員ヴィエイラを貧困と不正義を変革する新しいリーダーとして知事に申し上げた。

だが、選挙に勝つとヴィエイラはこれまでの柵に囚われ何一つ変革ができない。それに大きなショックをうけたパウロは首都に戻る。すると国内一の起業家フエンテスに近づくが、大統領選の動きの中で裏切られる。パウロは武装闘争に向けて蜂起的処置を再びヴィエイラと組む…と簡単に説明するとこんな感じで、必然的に起こる政治と文化の対立のややこしい事柄を痛々しく描写した1本である。


本作の冒頭の出だし方が最高にかっこいい。大海原をモノクロームの映像美で淡麗に空中撮影する(その間、民謡が流れる)。そしてカメラはそのまま長回しで山を映して大地を映し、遠空を微かに捉える。そして大西洋岸内陸"エルドラド"の文字が浮かび上がり物語が始まる。

この作品は現実と観念、象徴、回想、幻想そして夢想を交差させてストーリーが始まる分、かなり難解に感じてしまった個人的には。

いゃ〜初見したけど、この映画も凄いインパクトがある。ワンシーン毎に。あの冒頭のくだりで男が女と一緒に車に乗って道路を運転している前に警察官が2人遮るように立っていて、そこの隙間を突っ走った後に、砂漠のような砂浜にカットが変わるシーンは凄い。しかも男が1人立って途方も無い 虚無化を体現しているかの様な画作り…あっぱれよ。


正直、彼の過去の作品に比べると非常に政治的で退屈なのだが、ラストの王冠を頭に被ろうとする男のクローズアップからの、主人公の男と男女の虚無感たっぷりな道路の真ん中で拳銃を持って自殺しようとするシーンを後退しながらカメラが捉える場面は最高に好きな場面である。一瞬、J.ドゥミの「 天使の入江」の冒頭に出てきたジャンヌ・モローを捉えながらカメラが猛スピードでバックしていく演出が頭をよぎった。このシーンがあるだけでこの作品を見て良かったと思えるほどまでだ。

途中から睡魔に襲われそうになってしまったが、自力でなんとか見れた。上映時間も2時間まではいかないが、ほぼそのぐらいなので結構長く感じてしまう。でもブラジルと言う国柄が非常に濃く出ていて歴史的にはかなり勉強になるし良い作品だ。こういった政治的な作品でも荒々しく繊細な映像スタイルを貫く彼のスタンスはかなり評価したい。時には混沌に満ちていて、時には静けさの強烈な表現を観客に見せる感じ…たまらん。

あの砂浜に拳銃を持った男の長回し(固定するカメラで)を捉える間の只管、銃撃音とパトカーのサイレン音が流れながらエンドクレジットになるまでの一連の流れも非常に好みである。こんな作品じゃ当時かなり論戦巻き起こしたんじゃないかなと思う。実際映画祭でかなり受賞しているわけだし(政治批判とかしている作品て賞受賞しやすいんだよね)。

この作品に対して監督は"私にとって何よりも重要な作品"と語っているらしいが、どの作品見ても問題作が多くあるし、論戦を巻き起こすような映画ばかりである。それにしても静けさの中にあるグロテスクさがこの監督を高みへと申し上げている1つの理由かもしれない。殺戮の中の静寂と蠱惑、面白いように次から次えと死んでいく人々の強烈なサンバのリズム的な演出、支配的な人間の運命とその不条理な力によってひれ伏されてきた民衆の歴史と集合的記憶を映し出したコントラストの数々は、とにもかくにもブラジル映画がいかにこの60年代を牽引してきたかが分かる。

遡ればブラジルでもオリンピックが開催し、ワールドカップも成功したと言う歴史的な発展も記憶に新しいだろう。

ブラジルの地平で映画をもし撮ると言うなら諦めろ、ここのテリトリーはローシャだけのものだ。
Jeffrey

Jeffrey