イチロヲ

壁の中の秘事のイチロヲのレビュー・感想・評価

壁の中の秘事(1965年製作の映画)
4.5
鉄筋コンクリートの団地に居住する浪人生が、隣人への覗き行為に没入していく。「コンクリートの壁に囲まれた生活は、平和な監獄にいるようなものである」という、若松流哲学が反映されている、ピンク映画。

血気盛んな年頃の「理由はわからないけれど、壁を殴りたくなる精神状態」を、1965年の時流をもとにスケッチしている作品。覗き行為に勤しむ童貞浪人生と、酸いも甘いも噛み分けた中年の不倫カップル。その両視点によって物語が進行する。

覗きも不倫も「無味乾燥な生活から脱したい」という人間心理から生み出された、不道徳かつ背徳的な行為。本作の登場人物たちは、新刺激を追求すればするほど、底知れぬ不安感と寂寥感に見舞われ、負のスパイラルへと落ちていく。

「古きよき時代なんて本当にあったの?」という問い掛けに答えてくれる作品。 終局における浪人生の八つ当たり行為は、「同調したくないのに、同調できてしまう」という、アンビバレントな心理状態を沸き立たせてくる。
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