ハル

アメリカン・スリープオーバーのハルのレビュー・感想・評価

4.0
アメリカには、スリープオーバーと言って、子供らが他人の家で寝起きを共にする、「お泊り会」があるそうである。

冒頭、高校1年の少女マギーはプールで友人にぼやいている。そろそろ夏も終わり、新学期が始まろうというのに、夏らしいことができてない。もっと楽しいことをするべきなのではないか、と。

そんな折、彼女はダンス仲間からスリープオーバー(お泊り会)へ招待される。しかし、何か大人っぽい経験をしたいと考えている彼女には、仲間内で開かれるお泊り会が子供っぽく思えてしょうがない。そこで、彼女は、仲間の家へ向かうべきところを、知り合いから教わった年上の集まるパーティーへ乗り込む。奇しくも、そこで、昼間のプールで見かけた年上の男性と再会するのだった。

ちょうどその頃、街ではいくつものお泊り会が同時に開かれていた。そして、その中で、いくつものドラマが展開していた。一目惚れした女性を探す少年、友人の家で恋人の浮気を知った少女、恋をした双子の少女に会おうとする青年。夜が更け、夏が完全に終わろうとする頃、彼らはそれぞれの探しものをその手に掴もうとしていた。


「イット・フォローズ」を手がけたデヴィッド・ロバート・ミッチェルによる青春ドラマ。

スリープオーバーという英単語やお泊り会という概念に馴染みがなくても、ここで描かれる出来事は、失った青春を追体験させてくれて、懐かしいような、ほろ苦いような気分に浸れることだろう。

何者でもない若者たちが欲しいものを手に入れようともがく様子は、瑞々しくもあり、残酷さも孕んでいて、いずれにせよ、そこに年齢を重ねた大人たちが入り込む余地はない。閉じられた狭い世界かもしれないが、若者たちにとってはそれがすべてなのだ。いみじくも、登場人物の一人が印象的な台詞を吐いている。

彼は、新学期を目前に控えた夏の終わりの夜を、「人生最後の夜さ」と冗談めかして表する。

この台詞が、原題の「アメリカのお泊り会にまつわる神話」という部分に奇妙に交わる。10代にとって青春は人生そのもので、まさに神話と形容されるに相応しい。

失った青春を取り戻すことはできないが、せめて、この作品を観ている時だけは、あの頃の自分でありたいものだ。
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