仕事をすれば、
誰もが自分に問いを向けずにはいられない。
自身の在り方に疑問がふっとわく。
それは当然の過程だが、苦しくもある。
そんな苦しさを抱える人に寄り添う一作。
祖母から継いだ南洋裁店。
そこで仕立て人をする主人公市江。
デパート商人の藤井とのやり取りを通じ、
自らの仕事の在り方を省みる過程を丁寧に描く。
衣服を繕い、明日へと繋げる。
ミシンを踏む市江の一瞬一瞬に願いが込められていく。
その姿に心がゆっくりと、
だが確かに動かされていく。
衣服はいつか捨て去り、また買うもの。
それが今の当たり前。
だがこの作品に出てくる人々は一着の服を愛し、
その時の自分に合わせて繕い、共に生きていく。
その姿はシンプルだが、
ある種のうらやましさを感じさせる。
その一方で市江と藤井は対話を通して、
それぞれの仕事への在り方を問い直す。
これまでの生きる型を守り、生きゆくのか。
それとも今の自分の一歩外に出ていくのか。
自分が衣服にかける想いとは。
最後に2人がたどり着いた先は、
穏やかだが確かな決意に溢れたものだった。
作品全体はゆったりと時間がながれる。
一つ一つのシーンの余白に宿るものに、
美しくも儚いものを感じさせる。
静けさを感じながら、
この世界に浸れる時間は良質なひと時だった。