つばさ

繕い裁つ人のつばさのレビュー・感想・評価

繕い裁つ人(2015年製作の映画)
4.0
仕事をすれば、
誰もが自分に問いを向けずにはいられない。

自身の在り方に疑問がふっとわく。
それは当然の過程だが、苦しくもある。
そんな苦しさを抱える人に寄り添う一作。

祖母から継いだ南洋裁店。
そこで仕立て人をする主人公市江。

デパート商人の藤井とのやり取りを通じ、
自らの仕事の在り方を省みる過程を丁寧に描く。

衣服を繕い、明日へと繋げる。
ミシンを踏む市江の一瞬一瞬に願いが込められていく。
その姿に心がゆっくりと、
だが確かに動かされていく。

衣服はいつか捨て去り、また買うもの。
それが今の当たり前。

だがこの作品に出てくる人々は一着の服を愛し、
その時の自分に合わせて繕い、共に生きていく。

その姿はシンプルだが、
ある種のうらやましさを感じさせる。

その一方で市江と藤井は対話を通して、
それぞれの仕事への在り方を問い直す。

これまでの生きる型を守り、生きゆくのか。
それとも今の自分の一歩外に出ていくのか。
自分が衣服にかける想いとは。

最後に2人がたどり着いた先は、
穏やかだが確かな決意に溢れたものだった。

作品全体はゆったりと時間がながれる。
一つ一つのシーンの余白に宿るものに、
美しくも儚いものを感じさせる。

静けさを感じながら、
この世界に浸れる時間は良質なひと時だった。
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