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HUNGER ハンガーのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

HUNGER ハンガー(2008年製作の映画)
4.1
【アメーバと戦わないマックイーン長編デビュー作】
スティーヴ・マックイーンといえば、「人喰いアメーバの恐怖」でアメーバと戦い、ドイツ軍から逃げ、炎上する高層ビルから決死の脱出を図ろうとしたアメリカのイケメン俳優のことを思い浮かべるだろう。しかし、イギリスに同姓同名の映画監督がいることをご存じだろうか?「それでも夜は明ける」でアカデミー賞作品賞を受賞した監督こそ、第二のマックイーンである。驚いたことに黒人である。

そんな彼の長編デビュー作「HUNGER/ハンガー 静かなる抵抗」が凄いらしいということで今回観てみた。これがとんでもない作品であった...

☆「HUNGER/ハンガー 静かなる抵抗」あらすじ
1960年代末から始まった北アイルランド紛争で捕まった政治犯は、人権を訴え囚人服ではなく私服で服役することが許されていた。しかしながら、1970年代後半から情勢が代わり、囚人の人権が剥奪されるようになる。囚人達は、そこでハンガーストライキを始める。食事を拒み、自分の糞尿を監獄に塗りたくるという過激なストライキだった...

☆限られた台詞から見えてくる凄惨さ
北アイルランド紛争を扱った映画と言えば、「父に祈りを」が有名である。本作では、囚人が私服を着て、パーティーまで開かれる自由な獄中生活が描かれていた。ブンブンは「こんな無法地帯な刑務所ってあるんだ」と驚いた記憶がある。この「HUNGER/ハンガー 静かなる抵抗」は「父に祈りを」のその後を描いている。結局、囚人の私服を着て服役する権利は剥奪され、刑務官が囚人に暴行を加える凄惨な状態に逆戻りしてしまっていた。それを邦題通り、「静かな抵抗」で社会に訴える様子を本作は生々しく描いている。

本作は基本的に台詞はない。無表情、コミュニケーションもない中で繰り広げられる暴力、そして水面下で動く囚人達の抵抗が残酷にも美しい画面の前で繰り広げられる。観ている方は痛々しすぎて辛くなってくる。

そして、終盤に繰り広げられる本作唯一の会話といって良いほどの、10分以上に及ぶ神父との会話で涙する。神父は、危険過ぎるストライキを止めようとする。しかし、囚人の心は完全に神から離れ、死すら恐れない状況になっている。皮肉に皮肉を重ねる重厚な会話が北アイルランド紛争の凄惨さを物語っていた。

本作は紛れもない傑作。スティーブ・マックイーン監督、長編デビュー作にしてこれとは正直驚いた。
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