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屋根裏の散歩者のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

屋根裏の散歩者(1992年製作の映画)
4.7
1920年代の東京。遊民宿の東栄館に住む郷田三郎(三上博史)は定職につかず退屈な日々を送っていたが、ある日、押し入れの中で天井板がはずれることを発見し、そこから屋根裏に上り、徘徊を始めた。
所々にある節穴を通して、バイオリンを弾く清楚なお嬢様・煕子の様子や、妾の和枝を荒縄で縛り、その姿態を和紙に描く弁護士・越塚、複数の男と痴態を重ねる奈々子、下宿人の部屋に忍び込んでは小銭を盗んでいる女中の珠代など、様々な下宿人たちの姿が見え、郷田は日常からは想像も出来ない彼らの本性を覗き見るという禁断の楽しみを覚えた。
だが彼はそれにもすぐに飽き、ふと女との心中話をいつも自慢しているニヒルな歯科医・遠藤が眠っている時、その大口にモルヒネの溶液を垂らすという犯罪を思い立ち、実行した。
事は見事に運び、遠藤は死ぬが、郷田は動揺のあまりモルヒネの瓶を遠藤の部屋に落としてくるのを忘れ、再び屋根裏へ。
瓶を落とした時突然遠藤の部屋の目覚まし時計が鳴り、郷田は泣き出しそうな思いで慌てて部屋に戻る。
密室での出来事であったため事件は自殺として処理されたが、ただ一人、同じ下宿の一階に住む明智小五郎(嶋田久作)だけが、自殺する人間が目覚まし時計をセットするはずがないと疑問を抱いた。
そして明智は郷田が事件以来パッタリと煙草を吸わなくなったのもヒントとなり、屋根裏のからくりと彼の犯罪に気づく。
だがそれを警察に告げるのは彼の興味の中にはなかった。
明智に真相を暴かれた郷田は、ただ呆然と煙草をくゆらすのであった。
江戸川乱歩の短編ミステリー小説を鬼才実相寺昭雄監督が映画化。
冒頭の遊民宿の下宿人である高等遊民がよもやま話に花を咲かせるシーンから、淀んだ空気に満ちた耽美的な江戸川乱歩の世界が具現化されていて、鄙びた遊民宿や屋根裏を夢幻で妖しい空気に変える絶妙な照明とセピア色の映像や観る人を不安にさせるカメラワークが良い仕事をしている。
世間の何もかもに退屈し切った郷田三郎のサイコさを演じ切った三上博史と事件の解決より犯罪を犯す人間の心理にしか興味がない明智小五郎を低温な感じの得体の知れない感じの演技で作り上げた嶋田久作の、似たり寄ったり紙一重の2人の関係、遊民宿の下宿人と乱れた関係を結ぶ女脚本家など原作で言うところの「書くことが憚られるような凄まじい狂態」をR指定超えで描いた猟奇的な人間模様、まさに江戸川乱歩原作映画の最高傑作。
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