ジェイソン・ステイサム主演映画のお作法といえば【忍耐→警告→成敗】である。
しかし本作はそのうちの【忍耐】だけが100分間延々と続くので覚悟して観るべし。
舐めてた相手が殺人マシーンでした、みたいなカタルシスを本作に求めてはいけない。
冷たいロンドンの最底辺でひたすら耐え忍ぶステイサムを愛でるのみ。
ステイサム上級者でなければそれこそ耐えられないであろう、ステイサムへの愛を試される「ステイサム踏み絵」である。
ちな、「回想シーンでのステイサムがロン毛」というファンサービスをバッチリ押さえてあるのは高ポイント。
冒頭、ロンドンでホームレスをしていたステイサムがチンピラに追われる場面で、舞台「レ・ミゼラブル」のポスターがチラッとだが印象的に映る。
あぁこれは「贖罪」や「救済」の暗示だと。ステイサムはジャン・バルジャンで、逃げ込んだペントハウスは教会の役割だな、と思ったのだが、ステイサムは違った。
盗んだ食器(スプーン)でチンピラを成敗したのである。
贖罪される気なし(笑)
イラク戦争のショックで発症したPTSDとアルコール中毒でハミングバード(ハチドリ)の幻覚が見えるという哀れな男。
自分の周りの人が幸せであれば、自分は地獄に落ちて構わない。
白人アクション俳優演じる主人公が中国人マフィアに雇われて誰もが嫌がる汚い仕事を次々に請け負う、という展開はなかなか珍しい。
誰もが嫌がる汚いお仕事その1:
他のギャングが自分たちのシマで電話ボックスにピンクチラシを貼っていたら目の前で剥がす仕事。
…地味か!(笑)
懐かしいなぁピンクチラシ。
小学生の頃、ピンクチラシを集めて友達のランドセルにこっそり貼る遊びが見つかって先生に怒られたなぁ。
僕らは嫌なことがあったとき、ステイサムが映画でいつもやっている【成敗】を観てスカッとする。
けれど実際に人を【成敗】したらどんな気持ちになるだろうか?
果たしてスカッとするだろうか?
要するに本作はステイサム主演映画のいわば「セルフアンチ」である。
ただやはり、彼の【忍耐】があるからこそ、実の娘へ贈るパパさんな表情や、想いを寄せるシスターの前で抑えていた感情を露わにする姿が余計に萌えるのだ。
まぁ、たまにはこんなステイサムがいてもいいんじゃないですかね。