蛸

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密の蛸のレビュー・感想・評価

4.1
現代コンピュータの祖として有名なアラン・チューリングを主人公に据えたドラマ。
チューリングのパーソナリティを、三つの時代を並行して提示することで浮かび上がらせて行く構成。
それでもメインはやはり大戦下のイギリスでドイツの暗号機械エニグマによる暗号を解くために歴史の陰で奮闘していた時期の話なので、終始「秘密」に塗れた陰謀渦巻くドラマが展開される。

冒頭、観客を共犯者として国家レベルの「秘密」に誘い込むようなナレーションに引き込まれる。
WW2時の情報戦はまさしく「事実は小説よりも奇なり」を地で行くもので、陰謀渦巻くドラマはスパイ映画的な面白さに満ちている。
当然のことながらチューリングは天才なので、主に人間関係の部分に成長の余地がある人物として描写される。人とのコミュニケーションが苦手な主人公が、チームの人物と打ち解けて行く過程が丁寧に描かれていた(彼なりに頑張ったぎこちなさすぎるジョークが微笑ましい)。
しかし物語の終盤では、異端の天才チューリングの普通でないがゆえの孤独や寂寥感が悲しさを誘う。

たしかに地味だが手堅い演出が光る一本ではある。
ともすれば単なる再現ドラマと化してしまう恐れもある映画ではあるが、上記の構成やところどころにある気の利いた演出が映画としての格を保っていた。
シーンが切り替わる際の、「映像で韻を踏む」かのような演出(同じ形状や運動のものを映したショットを繋ぐ)も上手く機能している。
上記のようなショットは、ミクロな暗号解読に関連する描写とマクロな戦争描写を相似的なものとして提示する。それは、「暗号解読」という行為が戦争の大局を左右し、多くの人の生死を司るようになる終盤の展開を暗示しているかのようですらあった。

全体的に現代的な考え方の下で再構成したドラマという印象が強い(普通」じゃないことの肯定、もしくはそもそも「普通」など存在しないという考え方)。
それならチューリングの天才ぶりがストレートに炸裂しまくるような映画でも良かったとも思った。
蛸