かーくんとしょー

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密のかーくんとしょーのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

亡き祖父が戦時中に暗号解読に従事していたと聞いて以来ずっと観たいと思っており、地上波の録画でようやっと観ることができた。
それを受けて映画を観た第一の感想は、うちの祖父がしていたのは絶対こんな高度な暗号解読じゃないってこと。(笑)
祖父は語学に堪能だったと聞いているので、お高い言い方をすれば言語学的なアプローチをしていたのだろう。(完全に推測だが。)

映画に話を戻すと、かの悪名高きエニグマを破った天才〈数学者〉アラン・チューリングの凄さは、成し遂げた暗号解読という事実は勿論だが、まず暗号解読のためのアプローチが全く違う点にある。
普通であれば、暗号は何らかの言葉を表しているから言語学的にアプローチしたくなるのだが、それでは対症療法を繰り返すに過ぎないと考えるチューリングは、根本的に読み解く〈システム〉の構築を目指す。

日本ではエニグマに詳しくない人もいるだろうし(逆にイギリスでは皆わかりきっている事実なのだろうが)、エニグマがどれだけの怪物だったかを示しても良かったのではないかと思う。
しかし、おそらく本作の主眼が暗号解読そのものではないことも、このあたりの薄さ関わっているのだろう。
というのも、実際に暗号解読のシステムが完成したシーンでは、画面の中は結構盛り上がっているのだが、少し鑑賞者はポカンとしてしまうような温度差が気になっていたからだ。

本作の主人公アラン・チューリングは当時でも天才的な数学者だが、彼が今も名を残している分野は〈数学〉ではなく〈コンピュータ工学〉だろう。
一九九九年にTIME紙に掲載された「二〇世紀の最も影響力のある一〇〇人」でも、“computer scientist”となっている。
ちなみに、並び評されている科学者がアインシュタイン、フレミング、ハッブル、フェルミ、フロイト、ピアジェ、ヴィトゲンシュタインら錚々たるメンバーなので、どれだけチューリングが日本で知名度が如何に低いかわかるだろう。

知名度の低さの理由は様々あると思うが、ひとつは彼のエニグマ解読の功績が軍の秘匿事項だったこと、もうひとつは彼が性的マイノリティだった故に、功績まで蔑ろにされていたことが挙げられる。
このあたりは映画や史実を調べていただければと思うが、彼が受けた仕打ちと結末は恐ろしく悲しいもので、彼が名誉を取り戻したのもつい最近の話だ。

それを踏まえると、本作の主眼は、彼がシステム作りに何故これほどの熱意を注いだのか、に置かれているといえるだろう。
彼はシステムに亡き同性の恋人の名を付け、人工知能を作り上げる(恋人を蘇らせる)ことに人生を捧げる。その過程にエニグマ解読のためのシステム作りがあるに過ぎなかった、という筋道だ。

このコンピュータシステム=恋人の部分は史実かどうかわからない。
おそらく創作だろうと私は思うが、そうすることで彼の人生に光が当たるのであれば、映画としては、私はアリだと考える。
それと同時に、このように脚色して同情を誘わなくても、同性愛者の功績を人々が当たり前に単純に受け止められるようになってほしいと思う。

written by K.
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