ワンコ

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密のワンコのレビュー・感想・評価

4.5
【もうひとつの謎と、林檎のロゴ】

前に、バラエティ番組の企画で、東大と京大の学生に、尊敬する人物は誰かとアンケートを取ったところ、誰一人、アラン・チューリングの名前を上げた学生がいなくて、(確か)東大の先生がたいそう嘆いていたのを覚えている。

現在のコンピュータの原型となる演算機を発明・開発した人物なのにということだ。

まあ、クイズ番組で高得点を連発する卒業生を尊敬する人物として上げてる学生が結構いたので、嘆きたくなる気持ちも分からないではないと思った。

この作品では、主に、連合軍を勝利に導くため、エニグマを解読する演算機の開発に心血を注ぐアラン・チューリングの姿が描かれていて、この完成がなければ第二次世界大戦の終了は、更に数年後になったかもしれないと言われているので、スリルも感じられる。

そして、その後のコンピュータの発展を考えると、もし、アラン・チューリングが自殺していなければ、ノーベル賞を取っていたのだろうかなど想像も膨らむ。

映画では、同性愛が法律で禁じられていた当時のイギリスにあって、同性愛を疑われ、世間の厳しい目に晒されていたことや、政府の強制治療にフォーカスがあたってるように思うが、大戦の緊張が最高に高まってるなか、演算機を開発する強い気持ちを持った人物が、そんな程度のことで自殺するほど心を病むだろうか。

これは僕の疑問だ。

イギリス政府は近年、アラン・チューリングに対する扱いは間違いだったことを認め、社会的復権がなされたので、映画は、これをベースしているように思う。

しかし、実は、自殺の要因は、自身の開発した演算機を用いても尚、数学の難題リーマン予想を証明出来なかったからではないかとも言われている。

リーマン予想は、素数の出現はランダムではなく一定の法則性があるとする150年以上前に数学者リーマンが唱えた数学の予想なのだが、今もって証明を拒む難題だ。

数学の証明を拒む難題はいくつかあって、多くの数学者が挑み精神を病み、自ら命を絶った人も珍しくはない。

ビューティフル・マインドの主人公のナッシュ教授もリーマン予想に挑んだ数学者のひとりだ。

アラン・チューリングは、どうも、リーマン予想は間違いだと証明しようとしていたらしい。

そして、自ら開発した演算機で「簡単に」、それを証明可能だと考えていたようなのだ。

しかし、この数学の難題は、これをも、いとも簡単にはねつけてしまう。

何度も何度も何度も何度もプログラミングを変更してもだ。

そして、精神を病み、林檎に青酸カリを塗り、それをかじって絶命してしまう。

多くの著名な数学者が飲み込まれた渦と同じだ。

僕は偉大な数学者の苦悩を考えるに、こちらの方がアラン・チューリングの死の理由としてフィットするように感じる。

エニグマの解読なんて、大した命題であったはずはない。

数学の難題こそがチャレンジの対象であったと思うのだ。

そして、そのひと口かじられた林檎は、アラン・チューリングに敬意を込めて、あるハイテク企業のロゴになったと噂されている。

アップルだ。

アップルは公式にこれを認めてはいないと思うが、スティーブ・ジョブズをはじめ創業者達は、そんな敬意をアラン・チューリングに表したに違いないと想像はしたくなる。

東大生や京大生が名前を挙げなくても、やはり、アラン・チューリングは偉大だ。
ワンコ

ワンコ