イルーナ

ビッグ・アイズのイルーナのレビュー・感想・評価

ビッグ・アイズ(2014年製作の映画)
3.7
今の所、劇場で観た最後のバートン作品。
当時は「えー、バートン成分ほとんどないなぁ……」で、まったく印象に残らなかったんですよね。
おそらく、言われなきゃバートンの作品だって分からない人が多いんじゃないでしょうか。
同じ伝記作品で舞台となった時代も近い『エド・ウッド』と真逆の温度差。
地雷だった『ダーク・シャドウ』ですらまだ印象に残ったシーンがあるというのに。ある意味こっちの方が質が悪い。
しかし某wikiのバートン作品の記事コンプを目指している以上避けられません。
というわけで久々に再見してみましたが……

1950年代のアメリカ。
マーガレットは横暴な夫から娘を連れて自由の街サンフランシスコへ逃げたものの、当時はシングルマザーに対して冷たい社会だった。
当然絵も売れず、元夫に親権を奪われそうになる中、救いの手を差し伸べたのがウォルター・キーンという男。
口八丁手八丁で絵を売り込んでいくが、やがて『ビッグ・アイズ』シリーズの人気が出だすと、マーガレットの描いた絵を自分の作品だと騙りだす。
こうして共犯関係に巻き込まれてしまった薄幸のアーティスト、マーガレット。
朝から晩まで狭い部屋で絵を描かされ続け、しまいには周囲や自分までもが『ビッグ・アイズ』化する幻覚さえ見るように……

しかし常に張りついたような笑顔で口から出まかせを重ね、次第にモラハラ気質の本性を表していくウォルターのインパクトよ。
クリストフ・ヴァルツが本当に名演すぎる。演じてて楽しかったんだろうな……
実際マーガレットご本人から、「クリストフ・ヴァルツの姿、声、行動──すべてがウォルターそのものだったの」と太鼓判を押されるほどだったという。
しかも最初に描いていたという風景画ですら、他者の絵のサインを消して自分の名前を上書きしていたものだった。
つまり彼は画家ですらなかったというのがまた……
さらに「みんな絵を見るだけで買うてくれへん……ん、チラシはみんな持ってってるぞ?せや!」と、チラシを1枚10セントの有料にして結果的に大儲けするのだからただものでない。
客は「高価な本物の絵」ではなく、「コピーでも構わないから、好きな絵を手軽に入手したいだけ」というのはまさに真理。
プロデュース能力ばかりか商才にまで長けていたわけですから、そりゃコミュ力のないアーティストは太刀打ちできないよ。
創作する側にとっては恐ろしい話だ……
時代ばかりか、「評価基準は人それぞれな一方、有識者や有名人が評価したら追従する」というアート界の性質までもが悪い方向に噛み合ってしまっている。
とりあえず、名前のサインは名字だけでなくて名前も書かなきゃダメですね。

で、ハワイに逃れたマーガレットはエホバの証人(?!)の教えもあって、ついに訴訟に踏み切る。
ここでのウォルターの一人芝居が滑稽やら空しいやら。
トドメに「その場で『ビッグ・アイズ』の絵を描いてください」と言われたら……
口から出まかせだけの男のメッキがついに剥がされる瞬間。まさしく「ざまぁ!」のひと言。
しかし、最大のスカッとポイントの裁判シーンに入るのが残り20分の段階という遅さ。改めて見直して、「こんなに遅かったの?!」と驚きました。
さらに前述の通り、言われなきゃバートンの作品って分からないような作風という点で結構損してるかも。それさえ意識しなけりゃ良作なのですが……

……が、この作品、真の見どころは作られた経緯にありました。
この訴訟で勝訴したマーガレットはその後正当な評価を得た……と思いきや、スキャンダルの影響で色物扱いされるようになってしまったのだという。
そこで立ち上がったのがバートン。『ビッグ・アイズ』が60年代の作品ということは彼の子供時代ということで、当たり前のように作品に触れていたわけです。
実際、90年代には当時の恋人リサ・マリーの絵を描いてもらっていたほどのファンだった。
「みんなあの事件のせいで、あの絵を純粋に見るっていうことを忘れているじゃないか。じゃあ、これは映画にしなきゃ」ってことで、映画にしたのが本作。
これにはマーガレットも、「死ぬまでにこれが映画になって本当によかったわ!」と大喜びだったとか。
つまりエド・ウッドに続き、忘れられかけていたアーティストをまた救ったわけですよ。カッコいいよバートン……!

アニヲタwikiにまとめた記事
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/52604.html
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