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誰よりも狙われた男のねこたすのレビュー・感想・評価

誰よりも狙われた男(2014年製作の映画)
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この映画を観て、少し悲しくなってしまうのはやはりフィリップ・シーモア・ホフマンがもうこの世にいないということを実感してしまうからだろうか。

彼の訃報を知った時、まだ僕はそこまで映画を観ていたわけではなかった。その後、少しずつ評価の高い映画で彼を知り、ついに今日彼の遺作まで辿り着いた。

最後の最後まで素晴らしい役者だった。


そしてこのタイミングで、このタイプの映画を観ることになったのもまためぐり合わせか。TSUTAYAで借りた時は、事件前だったので…。

ドイツ・ハンブルクにて、一人のイスラム人を中心にして展開されるサスペンス映画。
映画を見る前は、てっきりフィリップ・シーモア・ホフマンが逃げ回る映画かと思っていたよ。

ハンブルクはドイツだけでなく、欧州にとっても重要な湾港都市である。そういった玄関口では、モノやカネだけでなく、人も動く。ドイツは経済的に豊かなので、出稼ぎに来たトルコ人が多いことでも有名だ。

冒頭2001年の9/11以降のテロ対策についてのテロップから始まる。
フィリップ・シーモア・ホフマン演じるギュンターはドイツの諜報機関の人間で、情報提供者から一人のイスラム青年について知り動き始める。

この映画の面白さは、バラバラの情報が話が進むにつれ繋がっていき線になるところだ。映画の終わりから振り返ると、ギュンターが点と点を結ぶために行動していたことが分かる。

融和的に描かれているが、結局はスパイだ。協力者に対しては一つのコマとしか思っていないし、少しずつ彼の手のかかった人間増えていくのは不思議とアガるところだ。
下手なピアノを弾くのも、まるで彼の掌で全てが起こっているかのよう。

アメとムチを自在に操り、自分の都合のいいように物事を進める。ついにその時が来た時の達成感といい、フィリップ・シーモア・ホフマンの安堵と笑顔。

しかし…。
小魚で大魚を釣り、やがてはサメを釣るという例えが出てきたように、自分も利用されたようなものだった。
その後の感情の爆発。そしてラストシーン。
彼の映画人生のフィナーレなのに、そんな悲しい顔で去っていくなよ、となんだか泣きそうになってしまった。

題材から考えると、人権弁護士の元に来たイスラム青年と二人で逃げるという映画になりそうだ。
そこを、暗躍するスパイを中心に、裏側でどのような人間ドラマが行われているか。丁寧に丁寧に。脚本を練り、実力派の俳優から生み出されるサスペンスはここまで面白いのだ。

そして、やはり主人公のフィリップ・シーモア・ホフマンの存在感が圧倒的なのだ。心の底からこの映画が彼の遺作でよかったなと思う。
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