サマセット7

仁義なき戦い 代理戦争のサマセット7のレビュー・感想・評価

仁義なき戦い 代理戦争(1973年製作の映画)
4.0
仁義なき戦いシリーズ第3作目。
監督はシリーズ通じて「柳生一族の陰謀」「バトルロワイヤル」の深作欣二。
主演はシリーズ通じて「県警対組織暴力」「トラック野郎」シリーズの、菅原文太。

第一作の後の1960年頃、広島最大の暴力団村岡組は跡目候補が殺され、すったもんだの挙句、呉の山守組組長、山守義雄が村岡組の勢力を傘下に収め、広島を手中にすることになる。
他方、跡目を狙っていた村岡組幹部の打本は山守と対立する。
第一作で山守と袂を分かった広能組組長広能昌三(菅原)だったが、山守は広能の人脈欲しさに、呉の長老に頼んで強引に傘下に戻させる。
広能は当初打本と組んで勢力を拡大すべく、自らの人脈を駆使して打本と神戸の大組織明石組との仲を取り持つが、山守と打本の対立に巻き込まれて、逆に打本から恨まれることになってしまう。
山守と打本の対立は徐々に強まり、それぞれの舎弟同士による代理戦争に発展する。
他方、打本と繋がる明石組は、広島での勢力拡大を狙う。
また明石組と対立する大組織神和会もまた、山守組の新たな若頭武田(小林旭)と手を組んで明石組に対抗しようと画策する。
かくして、山守と打本の対立もまた、明石組と神和会の大組織同士の代理戦争の様相を呈し始める…。

人気のヤクザ実録シリーズ第三弾。
前作が北大路欣也を主人公とする人情話だったのに対し、今作は菅原文太を主役に戻し、第1作同様の群像劇に戻している。
前2作に満ちていた抗争のバイオレンスやアクションは今作ではやや控えめで、むしろ、山守組の幹部たちが、明石組と神和会という大組織の間で、身の振り方を迫られる心理劇をメインに据えている。

菅原文太、金子信雄、田中邦衛、小林旭、加藤武、成田三樹夫、山城新伍、室田日出男といった面々の裏切りと策謀の相次ぐ心理戦は、ハラハラさせてくれて、見どころ十分。
中でも、第1作に続き、凄みを魅せる菅原文太、見事なタヌキ親父っぷりを見せる金子信雄、見事な追従を見せる田中邦衛、知的な新キャラクターを演じる小林旭、ヘタレな演技が笑いを誘う加藤武は際立っている。
若き渡瀬恒彦も、抗争に命を散らす愚かで哀れな若者を演じて印象深い。

深作監督の演出は今作でもキレキレで、テンポの良さが大変心地よい。
上映時間も100分強と、見やすいのもポイントが高い。
相変わらず、テーマ曲はテンションが上がる。
実録調のナレーションも中毒性がある。

前作ではメロドラマを配した故のウェットさがやや鼻についたが、今作では第1作のブラックなユーモアがさらに増量して復活しているように思える。
これは、金子信雄演じる山守義雄の突き抜けた存在が大きい。
泣き真似、手のひら返し、責任の擦りつけ、ゴマカシ、上前はねなど、ダメな上司の技のフルコンボを魅せる山守組長は、まさしく「仁義なき」男であり、このシリーズの顔である。
彼に振り回される広能ら幹部たちの姿は、哀れでもあり、どこか滑稽でもある。

このシリーズのテーマは、終わらない暴力抗争の無意味さや虚しさにあると思うが、今作単独では、上位組織の思惑に絡め取られて、代理戦争を強いられる下位組織の悲哀、ということになろうか。
冒頭に示されているように、日本という国も、米ソといった大国の下位組織という位置付けにあり、大きく見ると、社会批評性があるように思える。

じっくりと、本格抗争に入る前の群像心理戦を見事に描いた傑作シリーズの第三弾。
山守組長はどういう結末を迎えるのか。
同一脚本家の4部作としては最終話にあたる次作を楽しみにしたい(第5作目は別の脚本家による)。